内容説明
魂を吹き込まれた「城塞」の怪奇。イタリア幻想文学の巨匠が描く寓意に満ちたカフカ的世界。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
112
中編の表題作は、イタリアの小説や文学についてよく思う〝心の砂漠〟についての印象を新たにする。ひたすら感じる空虚さ。それについては短編「誤報が招いた死」「背景新聞社主幹殿」についても同じ。「怪獣コロンブレ」は、恐怖の後に美しさを感じた。他の方の感想を最も聞きたいのはこれ。「謙虚な司祭」も美しい。自らの傲慢さに悩むものに傲慢なものなどいるわけがないのだ。流される涙の清さ。「1980年の教訓」これだけはよく分からなかったな。2020/07/05
藤月はな(灯れ松明の火)
84
図書館で偶然、見つけた短篇集。表紙が北見隆氏なので個人的に嬉しかった。表題作は『魍魎の匣』を彷彿とさせます。ラウーラでありながらラウーラではない彼女がエリカを殺そうとする所はゾッとする。しかし、彼女の肥大した欲望と自我が崩壊しながら電源を消される様は、HALの最期めいて哀しかった。「海獣コロンブレ」は、すれ違いながらもいつの間にか同志になっていた二人の行く末が何ともほろ苦い。「謙虚な神父」は修道士にツッ込んでいました。いい加減、気づけよ!『1980年の教訓』はユートピアに見えるが内情は粛清と同じなのが怖い2018/07/13
YO)))
28
表題作「石の幻影」、かなり凄い作品だと思った。 「タタール人の砂漠」或いはカフカに接続する"砦文学"でありつつ、カサーレス「モレルの発明」にも比するべきハード純愛SFでもある。渓谷を埋め尽くす程のハードウェアを備えながら、しかし(人工の)新しき知性に於いては言語は必須ではないどころか邪魔にすらなるとの、文学の徒たるブッツァーティからの鋭く危険なアンチテーゼ。2020/05/10
うえうえ
17
170ページほどの『石の幻影』は読みやすく、雰囲気があって楽しめた。終わり方が少し物足りなく感じたけど。他の10ページほどの短編もアイデアにさほど新しさは感じないのに、楽しめる。追っていきたい作家。2018/12/06
磁石
13
それぞれに無視できないような不条理と不安が盛り込まれている作品群。どれも安心させてくれるような最後と答えが用意されているわけでなく、勧善懲悪・因果応報・愛の勝利をしてくれるわけでもない。現実にならどこにでも転がっている訳のわからなさ・理屈の通らなさが描かれて、目眩を起こさせてくれる。ここに描かれているのは、自分たちがいる場所とは違った場所だと思わせてくれる。……大人のおとぎ話です。2014/06/08