内容説明
カティンの森事件―二万人のポーランド将校が何者かによって虐殺された独ソ戦の闇。その犠牲者のなかに、たったひとり女性がいたことはあまり知られていない。彼女の名前はヤニナ・レヴァンドフスカ。優秀なパイロットであった彼女の頭蓋骨は調査隊によって持ち去られ、長らく歴史の表舞台から姿を消した。その足跡を追う旅は、ワルシャワからクラクフ、グダニスク、ポズナン、そしてカティンの森へ…。ポーランドという国家と一人の女性、そしてその一族の運命が重なり合う、歴史紀行ノンフィクション。
目次
第1章 ポーランドいまだ滅びず
第2章 ふたりの将軍
第3章 ヤニナは空をめざした
第4章 開戦前夜
第5章 収容所のクリスマス
終章 カティンの鳥たち
著者等紹介
小林文乃[コバヤシアヤノ]
1980年生まれ。ノンフィクション作家、出版プロデューサー。91年、10歳でTBS特別番組のこども特派員として旧ソ連時代のモスクワを取材。高校2年生から、交換留学生としてオーストラリアに滞在。京都造形芸術大学卒業。21年、カティンの森事件を題材としたルポ「カティンの鳥たち」が、第19回開高健ノンフィクション賞の最終候補となった(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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泰然
42
人間の血が湿る悪魔の所業に歴史紀行家と読者はどう向き合うべきであるか。元TBSこども特派員として冷戦期ロシアの地を訪れた経験のある著者は、英雄談でない等身大のポーランドの悲劇の歴史に人生の旅人のように迫る。ファシズムと共産主義の両者に蹂躙されたポーランドと、名だたる将軍の娘であったヤニナがカティンの森事件に至るまでの一族史、青春の瞬き、不屈の民族自決精神、悪の凡庸さによる人間の残虐性。「自分探しの旅などと簡単に言うが、果たして自分というものは存在するのか」。あの森の血は人類の血であるし尊厳への渇きである。2024/01/14
星落秋風五丈原
38
ぎりぎりでソ連が連合国側についたことで犯罪が見逃され加害者が歪められ遺体までどこかにやられた。死後まで辱められるポーランド。そしてまたロシアの侵攻が今まさに行われている。2023/04/23
Nobuko Hashimoto
31
ソ連によるポーランド将校(2万人以上といわれる)大量虐殺、いわゆるカティンの森事件の唯一の女性犠牲者ヤニナ・レヴァンドフスカの足跡を追った本。ヤニナを直接知る地元の人から話を聞いたり、将校たちが収容されていたアクセスの悪い修道院を訪ねて当時の間取り図を掲載するなど、足を使った取材の部分は面白いので、もっと写真を入れるなどすれば良かったような。資料を用いたと思われる記述の出典が明示されておらず、推測や感情的な表現が多い。そのため、著者のアイデンティティ確認の旅の記録という印象が残った。2023/06/06
遊々亭おさる
25
ドイツとソ連に挟まれた地理的条件故に受難の歴史の道を歩むポーランド。独ソ戦の最中に行われた戦争犯罪『カティンの森事件』の被害者の中で唯ひとりの女性軍人だったヤニナに興味を抱いた著者は、彼女が生きた痕跡を追いかけてその生涯を辿る旅に出る。独ソの罪の擦り付けあいを尻目に米国をはじめとする主要各国の対応は、現在進行形の戦争を巡る報道に触れるうえで念頭に置かなければならない教訓か。犠牲者の数が大切なのではなく、その一人ひとりのかけがえのない人生が大切なのだと再認識する一冊。悲劇は繰り返される。されど人は学ばない。2023/07/22
Cinejazz
24
独ソ不可侵条約(1939)で国を分断されたポーランドにおいて、スタ-リン麾下のソ連軍捕虜となった2万を超えるポーランド将校らが集団虐殺され隠蔽された「カティンの森事件」。 1940年春、ポ-ランド将校らをNKVD(内務人民委員部)が、スモレンスク近郊の森に連行し、二人の兵士が両脇を抱えて、三人目がその後頭部を撃つというやり方で惨殺し、土中深くに埋めた。 その犠牲者のなかに、たったひとり女性の飛行士がいた!・・・ 本作は、旧ソ連時代に所縁のある作家<木村文乃>さんが、国家間の思惑に翻弄された↓2024/04/06