内容説明
19歳小説家志望と90歳甲州弁のばばあ、溢れる悪態の応酬。第167回芥川賞候補作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
256
第167回芥川龍之介賞受賞作・候補作、第四弾(4/5)です。山下 紘加、初読です。祖母、母、娘、女三世代の群像劇、半分私小説のような感じでした。正に悪態をつきたくなるような作品、揉め事を家の外に持ち出してはイケマセン(笑) https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309030630/2022/08/19
モルク
138
小説家志望の20才になろうとする主人公ゆめ。90才のばばあと母親きいちゃんと暮らしている。父はゆめが高校生の時女をつくって出ていった。その後もきいちゃんは義母であるばばあと同居し我儘をきき、健康に苦慮し献身的に面倒を見ている。ゆめはそれがもどかしくばばあに悪態をつく。何も言わないきいちゃんに対しポンポン言うゆめが気持ちいい。悪態をつく中にも何かばばあへの愛情を感じる。それに対し親父はくそ野郎。ヤングケアラーであるゆめの本音がよくわかる。2023/04/02
いっち
130
「あくてえ」とは、甲州弁で「悪口」や「悪態」のこと。19歳の主人公は、悪態をつきまくる。同居の祖母を心の中で「ばばあ」と呼ぶ。主人公は、祖母と母との三人暮らし。祖母は母にとっての義母。父は浮気し家を出て、新しい家族と暮らしている。主人公は父にも悪態をつく。母は90歳の義母の世話をしているが、元夫に任せてもいいものを、弱音を吐かずに受け入れる。代わりに主人公が悪態をつく。主人公にとっての悪態は、コミュニケーションの手段。心の底から相手を憎んでいるわけではない。悪態をつかずにはいられないから吐き出すしかない。2022/07/16
ちゃちゃ
128
「ばばあ」という侮蔑を込めた呼び方で悪態をつく。19歳のゆめは祖母への嫌悪や憎悪から、“あくてえ”(悪態)をぶつけずにはいられない。けれどそこには、感情を言葉としてうまく表出できない不甲斐なさや苛立ちが混じっている。彼女は小説家志望でもあるのだ。老いた身で欲望のままに生きる祖母、離婚して生活費を入金できない身勝手な父親。感情が先走り言葉は形にならず無力感に包まれる。“あくてえ”の応酬は、そんな自己不全感を内包し何者でもない自分に突き刺さる。 終わりのない現実との苦闘を、熱く迸るような感性で描いた意欲作だ。2022/10/07
buchipanda3
118
ばばあ、な話。題名は甲州弁で悪態のこと。片や"ばばあ"は全国で通じる悪態の言葉で、20歳のゆめが同居して世話する90歳の祖母に向けて心で毎度つぶやく言葉。キツめな言葉だが、でもそれは彼女を支えているように思えた。彼女は祖母の姿をつぶさに見つめる。減らず口ばかり、でも転ぶだけで骨折する、背中も小さい。小憎たらしいけど放っておけない。父親のように目を背けない。祖母へ正面を向く、だからばばあ。対する祖母の甲州弁のあくてえも良い。現実は起承転結で結ばれない。日々続くからこそ受け身ばかりではないことが救いなのかも。2022/07/16