出版社内容情報
解体作業員の祐は、現場で男を助けたことを機に、抗不安薬依存に陥った自分の過去を突きつけられる。人間の再生を問う心震える傑作。
内容説明
「そんなにまでして生きている意味あるんすか」解体作業員の祐。ある青年との出会いが、抗不安薬依存に陥った過去を引き連れ、彼の平穏を脅かす。心震える傑作中篇。
著者等紹介
倉数茂[クラカズシゲル]
1969年生まれ。大学院修了後、中国大陸の大学で五年間日本文学を教える。帰国後の2011年、『黒揚羽の夏』(ポプラ社)でデビュー。18年、『名もなき王国』で日本SF大賞候補、三島賞候補(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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buchipanda3
111
人の心の弱さとその揺らぎを繊細かつ洗練された文章で綴った物語。写実的なようで、時折ふっと幻想的な描写が混ざり合い、この世の虚ろな感覚が呼び起こされるかのようだった。著者がもたらすこの読み心地はやはり好み。劇的な展開があるわけではないが、成島という不可解で幻のような男の存在と主人公・茅萱祐の過去が交差して、不安めいたものがじわじわと増幅していくながれに引き込まれた。コップや車の窓の水滴を用いた心情描写が何か印象的。最後は唐突だが、彼の贖う気持ちが、心の弱さに入り込む自らの虚無の存在へ立ち向かったのでは。2020/09/09
あも
82
そんなにまでして生きている意味あるんすか_忙しない筈なのに退屈で退屈で生きてる実感に薄くて、ふと訪れた空白の時間そんな単純な問いにすら答えられない自分に気付く。生きることに必死じゃないからそんな疑問が湧くのだとしても苦しくてでも何も変えられないままでいる。生きてるから生きてるそれだけで納得できたらいいのに。誰かと心を通わすたび誰かのために何かをするたびに擦り減っていくのに諦めることを覚えない。思う儘に欲しがることが誰かを救って完結できたらいいのに。何もかもに背を向けていつも隣に寄り添う奈落に落ちてひとり。2020/11/05
いたろう
76
前作「名もなき王国」が良かったので、手に取った。表題作他、短編1編。主人公は、大卒でありながら、解体業の現場で働いている中年男性。この境遇に至るまでに、一体、何があったのか。フラッシュバックのように、徐々に浮き上がってくる過去の日々。そして今、彼は何を決断したのか。「名もなき王国」が、現実と非現実が渾然一体となる話であったのに対して、本作は極めて現実的な話、と思って読んでいたが、それも怪しくなってくる。彼が最後に取った行動は、本当に現実の行動なのか。これから彼はどうなるのか。後は読み手の想像に委ねられる。2020/08/13
pohcho
61
解体作業の仕事を日々淡々とこなし、誰とも深く関わらず一人静かに生きる40代の佑。得体の知れないある青年との出会いが佑の忘れられない過去の傷を呼び覚まし、均衡を保っていた心に大きな漣をたてる・・。過去と現在を交差させながら佑の心のゆらぎが繊細に描かれるが、後半はだんだん現実かどうかわからなくなっていった。コップにたまる水滴、茅の輪くぐりのひとがた、車の窓の水滴が動く様子など、いくつかの情景が印象的。心の弱さや不安、不公平感など、今の時代の空気を感じながら、人生の虚ろさ、儚さ、美しさについて考えさせられた。2020/09/23
ヒデミン@もも
44
倉数茂さん、初読み。淡々と進む物語に、こんな感じも好みかもと読んでいたが、後半になって現実なのか妄想なのか訳がわからなくなった。何に対しての『あながい』なのか。それは完結したのか。読み手任せ?2020/08/12