内容説明
『夜戦と永遠』『切りとれ、あの祈る手を』の佐々木中がはじめて小説を書いた。―咲いたのだ、密やかに。夜の底の底で、未来の文学の先触れが。踏みにじられてなお枉げがたい、静かに顫える花が。
著者等紹介
佐々木中[ササキアタル]
1973年生。東京大学文学部思想文化学科卒業、東京大学大学院人文社会研究系基礎文化研究専攻宗教学宗教史学専門分野博士課程修了。博士(文学)。現在、立教大学、東京医科歯科大学教養部非常勤講師。専攻は哲学、現代思想、理論宗教学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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harass
52
この若い宗教学者の小説は初めて読む。何冊か小説を出していたのは知っていたが手に取るのは躊躇していた。詰屈した語彙を駆使し、行間の少ない凝縮したセンテンスのリズミカルな連なりとイメージは詩のようだ。小説らしいのは主人公の中年男性の行動が話の筋で、それらに彼の記憶や思考や夢想などが混ざり合い、彼の最期らしき結末までが神話のようだ。2017/03/26
あつひめ
22
佐々木さん初読み。日本語なんだけど外国語のように聞こえてくる。どこまでも続く言葉の行列。その中に著者の思いが詰まっている。著者の…というより主人公の思いが。普段聞きなれない表現が散らばっていて美しい場面を思い浮かべたり醜い場面を思い浮かべたり…なんとも忙しかった。読後、やっと大きく深呼吸できた。途中で読むのを止めるチャンスがなかなか見つからなくて。2011/05/12
鯖
18
内容はよく分からないけど(…そもそも内容があるんだろうか)、文字と文体と表現の力がすごい。ものすごく夏な本。夏のむわむわとした描写がたまらんです。それとこの方の本は装丁がどれもこれもかっちょよい。すごい。2014/08/18
Bartleby
16
『夜戦と永遠』で描けなかった、「敗北する喜び」を小説という形式で表現したと著者は語っていた。そのテーマを念頭に理解しようと読み始めたけれど、途中から微細な描写を味わうことに集中することにした。夏の緑の濃さや容赦ない陽射しの強さ、油蝉や蜩の鳴き声、潮で体がべとつく感じ、そうしたものがありありと浮かんでくる。夏に囲まれながら主人公だけはどこかそれらとは隔てられているようで不思議な静けさを感じた。そして何を待っているのかも分からないまま、何かを待ち続けているような無為なその姿はどこか馴染みのあるものだった。 2013/12/28
どらがあんこ
10
鈍刀で切り取られた夏はどこか筋のようなものが(繊維だろうか、骨だろうか)繋がっていて切れないが、その裂け目、切り目から言葉が滲み出てくる。それを拭き取ろうとするも生臭さは消えない。そんな本なのかなと。 熟れた実は甘いがどこか渋みのようなものが感じられ、皮が歯の間に残る。何かが残る。2018/12/17