出版社内容情報
少年は夢見るように微笑みながら沼の中へと消えた……従兄の草一を訪ねた紅於と頬白鳥の兄弟。彼らの瑠璃色の愛を描いた初期傑作! カラーイラスト入りオリジナル単行本を、新装版で待望の復刻。
内容説明
瑠璃色の夜にゆらぐ少年たちの心を描いた初期傑作。カラーイラスト入りオリジナル単行本が新たな装いで待望の復刻。
著者等紹介
長野まゆみ[ナガノマユミ]
東京都生まれ。1988年「少年アリス」で第二五回文藝賞を受賞し、デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あき
32
★★★☆ 沼には子どもが沈んでいる。不気味な雰囲気が漂う日本の夏が舞台の長野まゆみ小説。好きです。少年の白い手が沼から伸びるように蓮の花が咲く描写は、怖いけれど美しい。言いつけを破って何度もふらふらと沼に引き寄せられる頰白鳥にやきもきしました。子どもの頃に都市伝説に異様に引かれたような感覚、生ぬるくおもい泥の中にゆっくりと身体が沈んでいく想像、全てを白くぼやかす強い陽や夜沼から聞こえる水笛の音など美しい描写を楽しみました。2017/09/12
耳クソ
23
十代後半から二十代にかけては、学生時代における青春体験の有無、それが無い場合にはどうやって取り戻すか、あるいはありもしない理想としての青春をどう妄想するかについて、特に読書を多くするオタクっぽい男性はよく考えるが、私にとっては長野まゆみの小説を読むことでその追体験をしているのである。長野作品のテキストの辺り一面に張り巡らされた加工物としての自然のイメージは、私のよく知る国道沿いのショッピングモールのフードコートと同じような偽物で、偽物を極めることによって世界から切り離された別の世界の可能性を教えてくれる。2022/03/26
メイ&まー
21
疎ましい従兄と手を焼かす弟。紅於はその沼が深いはずはないと、こどもが沈んでいるなんてはずはないと思っている。健やかな紅於。幾種類もの緑色と水蜜の気怠い甘い匂い、ルリルリルリ…となく鳥。真夏の焼け付くような日差しのもとの物語なのに、どこかじっとりとつめたい感触も残し、冬に読むのもまたよかった。沼にはこどもが沈んでいる。時間が巻き戻るような錯覚。2016/01/08
うららん
19
紅於は夏になると祖母の田舎の家へ行く。今年は身体が弱く今まで行くことの出来なかった弟の頬白鳥を連れて。そこには並外れて美しい従兄弟の草一も住んでいる。近くの沼には子供が沈んでいるという噂があるが、それは大人達が子供を近寄らせないために言っている。夜中に沼で笛を吹く草一。沼に魅せられていく頬白鳥。ちょっと怖い話。★★☆☆☆2018/04/08
yourin♪
19
不思議な話。暑く気怠い夏、湧き水の水盆に浮かぶ水蜜、ルリルリルリと啼く水笛の音、物語に浸りました。草一が恐れ、頬白鳥が惹かれた沼、私には怖かった。沼は何を象徴してたのかな…。2014/12/12