内容説明
社会という制度のなかで、名づけられる役割としての生と性から生まれる、同時代の女性たちの悲哀や憤怒を刻む充実の歌集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kaizen@名古屋de朝活読書会
34
#栗木京子 #短歌 #現代女性歌人展 噴水の秀先(ほさき)をぬらす雨足の昏さかゆふべ子を呼ぶわが声 並びゐるドアというドアわづかづつ反る気遠さで雨のマンション ふたつ折りになるまで波に揉まれつつ遠ざかる帆を若さと呼ばむ わかき死を見とどけし夜を砂のごとあかりこぼして夫は湯浴みす 草むらにハイヒール脱ぎ捨てられて雨水(うすい)の碧き宇宙たまれり 布の花グラスにさはに挿し入れてこの世にはなき水を注げり 2016/07/21
だいだい(橙)
19
良かったです。栗木さんの対象との距離の取り方(家族とか、モノとか)がとてもいい。私生活を詠んだ短歌が、時に居心地の悪いものになってしまいがちなところを、高い知性を持って一歩下がったところから詠んでおられるような、そんな印象を受けました。そして、リズムがとてもいい。心地いいのです。破調がほとんどなく、文語を使っていることですっきりした仕上がりになっていて、べたべたしたところがない。30代から40代の主婦の目線と言われてもにわかには信じられません。詠み手によって違ってくるんだな、と納得です。2022/06/19
双海(ふたみ)
11
社会という制度のなかで、名づけられる役割としての生と性から生まれる、同時代の女性たちの悲哀や憤怒を刻む充実の歌集。「月かげの道あゆみ来てわれは銀ひとは碧のしづくに濡れつ」「さはさはと甕に挿す百合夜の更けにゆるき書体のごとくほどけつ」「白桃にひとつひそめる種子となり眠りたしねむりて夏を越えたし」2023/07/15
おはぎ
10
お恥ずかしながら綺羅という表現を知らなかったのだけれど、初めて知ってとてもうつくしい言葉だと思った。表紙の栗木さんがスカーフらしきものを羽織っているのは、それを意識してのことだろうか。定型文語体のきりっとした作風がよかった。歯切れがよいというか、読んでいるうちにリズムが沁みてきて心地よくなる。〈「甘い」とふ活字にしきりに会いたくて初冬の開架書庫に入りゆく〉〈軋みつつ空に新星うまれしか深夜の卓に塩こぼれつつ〉〈伸び縮みしはじめし自我もてあまし子は投擲の真似くり返す〉2022/08/25
あや
8
栗木京子さんの歌集の中でいちばん繰り返し読んだ歌集。主婦の日常は何気ないけどそれはかけがえのない瞬間の連続であることを栗木さんに教わった。2020/03/14