内容説明
明治・大正・昭和をつらぬく日本近代文学の志とは何か。リアリズム思潮を座標軸とし、その実相と衰退の根拠を追究する生きた作家論集成。
目次
リアリズムの源流―写生文と他者の問題
石見人 森林太郎
ある遁走者の生涯について―永井荷風
谷崎潤一郎
中野重治の小説と文体
芥川龍之介
菊池寛
正宗白鳥
伊東静雄の詩業について
近代日本文学の底流
国文学研究について
太宰治
河上徹太郎
三島由紀夫の家
武田泰淳論
“フォニイ”考
感想・レビュー
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euthanasia
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「人生というものは、芥川がその知性と神経のピンセットの先でつくりあげた箱庭細工のように出来上がっていない、ということを、戦後の中学生は早く識りすぎていた。私には、芥川が現実との間に設けたシニカルな柵を信じる余裕はなかった。」(p.132)この箇所を読んだとき、中学生江藤の「達観」と「成熟」ぶりに素直に感心してしまうのと同時に、晩年のあのような最期に思い及ぶに、やはり江藤にとって早すぎる「成熟」はある種の悲劇でもあったのではないか、といささか穿った見方をせずにいられなかった。2012/12/21