出版社内容情報
政治はいかに民意を反映するのか、江戸時代の世論を読み取ることによって、戦後歴史学が描きだしてきた近世日本のイメージを再検証し、新しい江戸時代像を描く。戦後歴史学のパラダイムの変遷を整理し、歴史学の現在を模索しつつ、著者の研究の到達点を明らかにする。
目次
序章 新しい江戸時代像をめざして
第1章 幕府官僚と利益集団―天保の油方仕法改革と政策過程
第2章 幕府の経済政策と地域住民―灯油市場をめぐる奉行所の対応
第3章 地域的公共圏の形成―郡中議定と社会・権力
第4章 天保期の社会と天保改革―世論と政策決定過程から読みなおす
第5章 武士と役人
終章 私にとっての江戸時代論
著者等紹介
平川新[ヒラカワアラタ]
1950年福岡県生まれ。東北大学大学院文学研究科修士課程修了。東北大学名誉教授、宮城県慶長使節船ミュージアム(サン・ファン館)館長。『戦国日本と大航海時代―秀吉・家康・政宗の外交戦略』(中公新書、2018年。2019年和辻哲郎文化賞受賞)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
94
封建的な専制政治と反抗する民衆という階級闘争的な江戸時代像を転換し、幕府は世論をくみ取る政治を行ったため太平の世が続いたとする。天保の改革で実施された諸政策は水野忠邦の独断ではなく、奉行や代官の意見を吸収し採用されたものとは驚いた。また天明の大飢饉時に幕領や大名旗本領を超えて地域の名主が集まり、米穀移出と酒造禁止を取り決めたのが法として通用していた。庶民出身の学者が多く出たり、新選組に通じる民衆の剣術ブームなどは、厳格な身分制社会との先入観を崩してしまう。歴史を見る上での複眼思考の重要性を改めて思い知る。2022/07/24