出版社内容情報
明治政府の歴史編纂事業は,歴代正史との接続による伝統の強調,国民意識の形成,西洋学問の導入という三つの目的がせめぎあう場となった.その舞台となった東京大学史料編纂所の歴史から語り起こし,国家との関わりにおける歴史学の役割を問う.
内容説明
日本史学の誕生。明治政府が取り組んだ歴史編纂事業の全体像を東京大学史料編纂所の歴史から語り起こす史学史の基本書。
目次
第1章 序論
第2章 政府事業としての修史
第3章 修史部局の活動
第4章 官撰修史の体裁
第5章 学問としての歴史学
第6章 対立する歴史学とイデオロギー
第7章 結論
著者等紹介
メール,マーガレット[メール,マーガレット] [Mehl,Margaret]
1981年ボン大学入学。1991年同大学博士号取得。2005年コペンハーゲン大学博士号取得。ケンブリッジ大学客員研究員、エジンバラ大学助教授、スコットランド・スターリング大学助教授を経て、コペンハーゲン大学准教授
千葉功[チバイサオ]
学習院大学文学部教授
松沢裕作[マツザワユウサク]
慶應義塾大学経済学部准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Pyonkichi
3
修史御沙汰書にはじまり史料編纂所にいたる明治期の修史事業の全貌を論じた本。帯にある通り、近代日本史学史の基本書となるであろう良書です。日本においては国家の修史事業が国民的なアイデンティティ形成に大きく寄与したとは言えず、むしろそれに失敗したというのが一つの結論。「正史」編纂の挫折から「史料」編纂への傾注に至るプロセスは、とても説得的に論じられていると思います。ただ、膨大な史料を集積する具体的な過程や、集積された史料が何をもたらしたのか、といった点はほぼ論じられていません。2017/11/22
猿田康二
2
まさに歴史の裏舞台を掘り起こして明示する意欲的な書である。そして何と言っても、それを広く世に衆知しようと多くの労力と熱意を持って、翻訳し出版した「東京大学出版会」に感謝したい。本書は、明治維新後「修史」編纂を通して多くの人材が育成され、紆余曲折を経て近代日本において歴史学が育っていったかを描写し、読者にある種の感動を与えてくれる。見事な業績というしかない。そしてこの仕事が、一人のドイツ人女性によって成された事に驚きを禁じえない。2018/04/30
絜
1
明治国家の修史事業を包括的に扱う基本的研究書。日本における近代歴史学の形成を、政治状況、学問伝統、西洋の衝撃、国民国家の出現などの観点から観測されるほか、国民国家形成期における歴史学の役割という普遍性のあるテーマに繋がっていく。官僚から出発した修史部局中心メンバーによる「純正史学」と「応用史学」の峻別は、後者=歴史叙述・社会教育における歴史知識の機能問題を軽視し、歴史学を政治に奉仕させる結果を招いた点は興味深かった。松沢氏解説にも指摘されるように、修史部局の頂点的メンバー以外に下級職員の動向が気になった。2024/02/05