出版社内容情報
大坂・堂島で紙油問屋を営んでいた上田秋成は、一帯を襲った火事ですべてを失い、幼なじみの雨月が結ぶ庵のもとに寄寓して、衣食を共にするようになった。ところがこの雨月、人間の言葉で憎まれ口を叩く「遊戯」と呼ばれる兎を筆頭に、「妖し」を惹きつける不思議な力を持っており、二人と一匹の前に、つぎつぎと不可解な事象が振りかかるが――。
江戸時代中期の読本『雨月物語』に材を取った、不穏で幻想的な連作短編集。
西條奈加［サイジョウナカ］
著・文・その他
内容説明
大坂堂島の紙問屋・嶋屋を営んでいた秋成は、町一帯を襲った火事によって店を失い幼なじみの雨月が結ぶ香具波志庵に居候することに。ところがその雨月、飄々とした性格ながら妖しを引き寄せる体質で、しだいに彼らの周りには、憎まれ口をたたく兎やら、成仏できぬ人の怨念やらが溢れ出す。さらにその先で待ち受けていたのは、世界の成り立ちを根本から変える驚くべき真実だった―江戸怪異譚の傑作『雨月物語』に大胆な現代的解釈を試みた、珠玉の連作短篇集。
著者等紹介
西條奈加［サイジョウナカ］
１９６４年北海道生まれ。２００５年に『金春屋ゴメス』で第１７回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。’１２年、『涅槃の雪』で第１８回中山義秀文学賞を受賞。’１５年、『まるまるの毬』で第３６回吉川英治文学新人賞を受賞（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みっちゃん
176
｢雨月物語｣上田秋成が書いた怪奇もの、という知識しかなかったが、とても趣深く読む事ができた。西條版｢雨月物語誕生の経緯｣秋成と雨月の二人が遭遇する様々な怪異を通して描かれるのは、ひととして生まれたものの業。迷い嘆き、自分でも抑えられない執着にもがき苦しむ、それは異形の存在となり果てても終わることはない。何と恐ろしく哀れであることか。それまでも幼馴染みの二人の関係には何か隠されたものが、とは伺えたが終盤明らかになる真相には驚かされた。胸に染みるラスト、さらに表紙を見返すと切なさと優しいものが胸に広がる。2020/09/23
R
170
雨月物語成立秘話、ファンタジー小説でした。鳥獣戯画の兎が出てきたり、様々な「あやかし」なる妖怪のようなものとのやりとりも出てくるけども、物語は人間の情について描いたものでした。様々な情がしがらみや、呪いのような現象を呼び、それらを解決するような、ただ知るだけのような、複雑な気持ちを抱かせる物語が続く。雨月物語を知っているとより一層楽しめるつくりのようですが、知らないでも面白かった。2019/03/25
Makoto Yamamoto
168
高校時代に「雨月物語」、上田秋成で覚えた記憶があり、内容はともかくある意味スッと入れた。どこまでが原作でどこからが著者なのかはわからないが、物語の端々に出てくる一番怖いのは生きている人間というフレーズが頭に残る。 妖も鬼も人の恐ろしさには勝てない。 雨月の存在が・・・と思い始めたころから、面白くなって一気に読み終えてしまった。 さすが西條奈加。2021/08/25
初美マリン
159
雨月物語誕生秘話とでもいいあらわすのか、しかし内容はとても深く面白い。人の世から排斥された寂しい人間、我は唯一無二我が有る限り孤独、神仏に仕え人道を説くのは他意がないから傲慢、己の真理を求める者が、書ける、人と冥界がどろどろせず、語られていた2019/03/27
タイ子
142
上田秋成の「雨月物語」が書かれるまでを西條さんらしく優しく妖しく、哀しく綴った物語。虚構と実話を取り混ぜて、たぶんこうだったら魅力的だろうな感が出てて面白く読了。登場する秋成と竹馬の友である雨月と５００年の命を永らえてるウサギの関係がほのぼのとしていていい。それゆえ終盤の展開にウルウル状態です。人間の業は死人の怨念より深い…。だけど、生きてる人間は魂がある。「雨月物語」はずいぶん前に読んだが、あのゾワゾワ感は今も覚えている。一話一話がもしこんな下敷きだと思ったら今再読したら違う感覚で読めるかも。2019/01/10
