内容説明
「平成」の虚妄を予言し、現代文明を根底から疑った批評家の光と影―。没後二十年、自死の当日に会った著者の手による決定的評伝、遂に刊行!
目次
最後の一日と最初の一日
美しき「母」を探し求めて
祖父の「海軍」と祖母の「海軍」
「故郷」と「胎内」を失った少年
日米戦争下の落第坊主
湘南ボーイの黄金の「戦後」
東京の場末の「日本浪曼派」
日比谷高校の早熟な「若年寄」
「貴族」の矜持と「道化」の屈辱
生存競争から降りた一年間〔ほか〕
著者等紹介
平山周吉[ヒラヤマシュウキチ]
昭和27(1952)年東京生まれ。慶応義塾大学文学部国文科卒。出版社で雑誌、書籍の編集に従事した。現在、雑文家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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trazom
26
本当に読み応えのある見事な評伝だ。江藤さん没後20年。文芸評論家及び保守派の論客としての業績を見直すとともに、変節、自己顕示、論争癖など多くの批判に晒された人間性を振り返る上で、これ以上詳細な評伝は考えられない。私自身、初めて江藤さんの「夏目漱石」を手にし、弱冠23歳で「小宮豊隆は間違っている」などと断じているのを読んだ時、何て生意気な文章かと思ったのを思い出す。そうやって既成概念に挑みながら、自らが権威になった江藤さんの人生だが、その背景に、家族・妻・師・友に関する複雑な関係があったことがよくわかる。2019/06/28
しゅん
17
長かったー。しかし面白かった。江藤淳の自信とコンプレックスの物語が、幼き日の母の死、都落ちのような引っ越し、病床生活と自殺未遂などから語られていく。本人が暗く語っていた高校生活が、実は生徒会も執筆も作曲も行う旺盛な時期だった話が意外性強い。西脇順三郎への複雑な敵意、井筒俊彦への強い尊敬という二人の教師への態度が印象的で、他にも埴谷雄高、大岡昇平、大江健三郎、小林秀雄、吉本隆明などの大家とどのような関係にあったかが詳しく書かれている。若い頃から経理を意識してるのが一番凄いところだと思う。2021/02/17
金北山の麓に生まれ育って
8
【出色の出来で読みやすい】江藤淳を知ったのは「吉本隆明全対談集」でそのやり取りは圧倒的だった。本書を読んで嫌味で好色で二枚舌でひねくれてて攻撃的、愛妻家の仮面をかぶった偽善者の面もあったんだと、いやはや濃すぎる人生。病苦に苦しみ始める60歳あたりから死の臭いが充満してきて読んでて本当に辛かった。感銘を受けた個所は数えきれない、吉本が遺書を読んで「これは鴎外だ」と正確に気が付くとか大江が死後10年後に江藤をモデルに小説を書いたこととか。よくここまで調べたものだ、あと皇后が親戚だったとは知らなかった。2019/10/24
フォン
7
700頁を超える大作。江藤淳の出生からその死までを丹念に追った評伝。 江藤の文学はもちろん、愛人との関係や堕胎、果ては収入源、不動産まで江藤の私生活を徹底的に追う筆者の姿勢には恐れ入った。とは言え、丹念に、あるいは執拗に江藤淳という人間に迫る本書の筆致は筆者が生前の江藤と交流があったということもあり、優しげでそれが本書の読後感を爽快なものにしている。2020/04/26
どんちゃん
5
江藤淳という方は、学生時代から論壇に存在感を示し、あの時代でアメリカで教える立場を経験し、多くの著作、批評を残しただけでなく、政界で与党側での立場でも活動した。様々な立ち位置で、世の中をどう解釈してどう自分は行動するのか、という点で必ず足跡を文章で残してきたようだ。生涯のテーマであったであろう「他者」について、やはり学生時代の江藤淳を見出した後に死を選ぶ先輩の言葉も「他者なんだよな」ということが興味深い。小説を読んでいるような700ページを越える評伝。2020/08/31