内容説明
東京近郊の小さな古道具屋でアルバイトをする「わたし」。ダメ男感漂う店主・中野さん。きりっと女っぷりのいい姉マサヨさん。わたしと恋仲であるようなないような、むっつり屋のタケオ。どこかあやしい常連たち…。不器用でスケール小さく、けれど懐の深い人々と、なつかしくもチープな品々。中野商店を舞台に繰り広げられるなんともじれったい恋と世代をこえた友情を描く傑作長編。
著者等紹介
川上弘美[カワカミヒロミ]
1958(昭和33)年東京都生れ。’94(平成6)年「神様」で第一回パスカル短篇文学新人賞を受賞。’96年「蛇を踏む」で芥川賞、’99年『神様』でドゥマゴ文学賞、紫式部文学賞、2000年『溺レる』で伊藤整文学賞、女流文学賞、’01年『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、’07年『真鶴』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
430
川上弘美にしては珍しくリアリズム小説。少なくても日常を超越したり(この人の場合は超越というよりは逸脱か)はしない。東京のどこかの街(特定されてはいないが、高円寺とか、吉祥寺とか、そのあたりという印象)にあった、古道具の中野商店を舞台に、そこに集う人々がヒトミの視点から語られる。ここでの川上弘美の方法は、中野商店を設定し、主要な人物(ヒトミ、テツオ、ハルオ、マサヨ)の基本的な性格付けを行った後は、これらの登場人物たちに自由に行動させたのではないかと思われる。終わってみると、なんだか一場の夢だったかのようだ。2012/07/10
yoshida
253
古道具を扱う中野商店に集まる人々の人間模様。淡々と静かに日常が過ぎて行く。淡い恋や微妙な男女の距離感。川上弘美さんの作品は読んでいて、どうしようもない寂寥感を感じる場面がある。その場面を見つけると繰り返し読む。本作は連作短編集の形をとっており読みやすい。ヒトミとタケオの付かず離れずの微妙な関係。中野さんと別れた後に磨きがかかるサキ子さんの美しさ。丸山さんへのマサヨさんの想い。淡々と読み進めながらも、印象に残る場面が多い。そして、様々な日常の後の最終章が実に暖かみがある。ほっとした読後感を持ち読了できた。2018/02/22
しんたろー
182
『センセイの鞄』が良かったので川上さん2冊目。主人公・ヒトミの目線で描かれる古道具屋での日常は、大きな事件もなく淡々としたものだが、いい加減な店主・中野、その姉でさばけた女・マサヨ、ぶっきら坊なタケオの4人を核にしてユラユラと流れる小川のせせらぎのよう…様々な恋を絡めてノンビリ進む物語が心地好い。人物描写のセンスとかドラマのような口調とかが好みの分かれる文章だが、妙に口に合うスナック菓子を食べた時のように、ページを捲る手が止まらなかった。頷けたりクスッと笑ってしまう男女の機微が楽しめる素敵な作品だった。2019/01/31
masa@レビューお休み中
165
妙な既視感がある。はじめて読んだ物語であるにも関わらず、以前から見知っている出来事のように感じてしまう。登場人物は身近にいる知人のように思えてしまうし、語られる話も、横で一緒になって聞いているような気になってしまう。だからなのか、フィクションと言われても、恋愛小説と言われても腑に落ちない違和感があるのだ。親戚のおじさんの話、近所のお姉さんの話と言われた方がしっくりくるのだから不思議だ。物語は、東京近郊の古道具屋である中野商店が舞台となる。古道具屋の日常を描いた、奇妙で、不思議で、少しだけやさしい物語です。2013/07/02
ユメ
151
夏場のもわんとした分厚い空気のように、読んでいると何かきっぱりしないものに包まれるが、決して不快ではない。「友達以上恋人未満」というのは漠然とした言葉だけれど、それですらはっきりして見えるほどヒトミとタケオの関係性は名状しがたく、二人の考えていることはなかなか理解できなかったが、突如こちらの胸の内を見透かしたような台詞があったりして、彼らも私と同じ世界の住人なのだということを実感した。恋することも生きていくこともまったく厄介なもので、考え出すとぐうぐう眠ってしまいたくなるものだ。でも、悪いばかりじゃない。2015/05/18