出版社内容情報
100年前の吉祥寺♪ 今も昔も「住みたい町」No.1!! 詩情溢れる筆致で自然美を綴った表題作ほか18編を収録。
浪漫主義と抒情に出発した初期の名作18編を収録した独歩の第一短編集。詩情に満ちた自然観察で武蔵野の林間の美をあまねく知らしめた不朽の名作「武蔵野」、自然を背景にした平凡な人間の平凡な生活のうちに広大な一種の無限性を感じさせる「忘れえぬ人々」。ほかに「源叔父」「河霧」「鹿狩」など、簡勁で彫りのふかい文体と、内容にふさわしい構成の秀抜さを示す作品を収める。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤森かつき(Katsuki Fujimori)
51
独歩さんの誕生日に。古の武蔵野と今の武蔵野は違う、と明治31年の武蔵野が語られている。現在、渋谷周辺には、全くその面影は無いし、武蔵野に含まれる地も変わってしまったろう。面影を残す武蔵野がまだどこかにあるのだろうか、と武蔵野線横目にちょっと想いに耽ってもみた。明治の文学は、なかなか難解だ。硬質な印象と美しい描写の連続。「源叔父」は、何とも複雑な余韻だった。「忘れえぬ人々」は、当然といえば当然のオチなのだけれど、ちょっと気の毒ではあるかな、と。「小春」が好みかな。この二人が意味ある画題、というのが良かった。2019/08/30
そうたそ
45
★★★★☆ 表題作があまりにも有名だが、他の作品もその「武蔵野」に通ずる魅力、あるいはまた異なった魅力が伺い知れる佳作揃い。文語と口語の入り混じった文体には読みにくさも感じるが、「武蔵野」に代表される写実的で自然の美しさを愛でるような端正な文章が却ってその文体により魅力を増しているようにも思える。読んでみれば、現代では当たり前のような人間描写でなく、自然描写によって作品が構成されるというのが特徴的。安易に作家を志す者は今も昔も多いだろうが、こんな美しい文章に触れると自分なら一瞬で挫折するだろうなあ。2015/11/18
翔亀
41
【シリーズ森4】独歩初期自選短編集。14編を収める(1896-1900)。表題作「武蔵野」が目当てだったが全編読んでみた。近代日本の自然主義文学は、要は私小説のぐだぐだドロドロと敬遠していたが、その思い込みが覆された。まず「武蔵野」は彼の文学的マニフェストとして傑出しているが、その前後の試行錯誤が興味深い。文体が文語、候体、言文一致体が交互に採用されている。四迷のツルゲーネフの言文一致体翻訳が引用される「武蔵野」は、文体のマニフェストでもあったのだ。第二に、独歩の自然主義は(彼自身は自作を自然主義文学と↓2020/12/29
いちろく
39
大どんでん返しのラスト1行という印象は、学生の時以来の再読でも変わらない。当時の風景や生活を描いた国木田独歩の武蔵野。ページを捲る度に、120年前の武蔵野の世界観へと導いてくれる所が凄い。だからこそ、当時の都から遠くない場所に存在している現実を、ラストのたった一行で表現している点に驚く。それは人口が増え都市化へと進む、これからの武蔵野を暗示していると思うのは深読みし過ぎか?それでも、武蔵野がどの様に変化したかは、今の我々が目にしている所。2018/09/14
mm
36
全部読んでないけど。。ここから人間の内面からの視線で物を見るということが始まったと柄谷行人が言っていた「武蔵野」をまず読んでみる。私は武蔵野のこんなところやあんなところが好きです、という話だね。でも確かに主観がなくてはこんな話は出来んわな。あくまでも自分にとっての良い感じ。どんな風にいい感じかを語る言葉をまだ多く持たないので、ツルゲーネフの引用と文語の定型的表現も混ざる。風景描写だけでなくて、そこに自分はどんな生活を想像しているのかってことも書いてます。道玄坂と白金がええ感じの田舎扱いなのにはびっくり‼︎2018/08/19