出版社内容情報
2021年度集英社ノベル大賞〈大賞〉受賞!
17歳の才能が抉り出す新世代小説。この青春は、あなたをブン殴る。
「先生。今、テレビに出てる人たちは本物ですか?」
男子部員はあたしたちを入れるのを嫌がった――だからあたしはバンドを組んだ、はずだった。高校入学を機にガールズバンドを結成した鳴海は、ロックフェスへの出場を目指して練習に没頭していた。だが高2の夏休み明け、メンバーのひとりが進路を理由に脱退してしまう。「女子限定」が条件の欠員募集に応募してきたのは、笑顔と口調がとんでもなく胡散臭く、そしてとんでもなくキーボードがうまい青年で……。(みるならなるみ)
「私は、彼らをこんな場所に貶めた世界を知りたかった」
ごく普通の女子中学生・四葉は「幸福の子」。新興宗教・運命共有教の救いの象徴として崇められ、信者同士で共同生活を行う家では他人を「お母さん」と呼び、家族には「四葉様」と呼ばれている。学校にも居場所がない四葉は、たった一人の友達である加子といつも一緒にいた。いじめられっ子である彼女に対し、四葉は友達だけど許せない、友達だからこそ許せない、ある「小さな」罪を犯してしまう。(シラナイカナコ)
ガールズバンドと新興宗教、全く異なる世界に属する少女たちの鮮烈で泥濘んだ感情を、 生々しく繊細な筆致で描くデビュー作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
えりこんぐ
51
献本当選ありがとうございます♪ ゆるく繋がっている2つの短編は、JKガールズバンドと新興宗教。夢に向かってもがきながら突き進むメンバーたちは、いろいろあれども胸熱!うんうん、かっこいいねで読み終え、これに対し暗くて閉塞感たっぷりの後半。2つの対比に圧倒された。2003年生まれの若い作者さん。しかも17歳の時に書かれたそうでびっくり(゚∀゚) 次作も絶対読む✨【献本プルーフ当選本】2022/04/10
よっち
33
ガールズバンドと新興宗教。同じ世界観の中で全く異なる世界に属する少女たちの葛藤と複雑に絡み合う思いを描いた物語。進路を理由にしたメンバーの突然の脱退から、ガールズバンドの「女子限定」が条件の欠員募集に応募してきた胡散臭くてキーボードが上手い青年の存在。新興宗教の救いの象徴として崇められた少女の逃亡と、彼女が忘れられないある小さな罪。新興宗教という意外な形で繋がっていた二つの物語で描かれている突然突きつけられたままならない状況にどう足掻くのか。登場人物たちの生々しい葛藤とその結末がなかなか鮮烈な物語でした。2022/04/21
れっつ
30
前半は高校生ガールズバンドの光と影を、後半は新興宗教を軸に友達関係の崩壊とその後を描く。2編は互いに関わりがある動と静のイメージ。中高生たちのキラキラしたノリや不安定さ、表層と内面とのギャップなどと、水面下で身近に蔓延る問題とを絡めて、17歳の作者が思いをイマココにぶつけながら、繊細に大胆に描き出した等身大の小説、という感じがした。素直な気持ちを上手く伝えられず、昂る感情を素知らぬ冷静で隠していたり、複雑でままならない青春を生きる人たちの様々な揺れが、かつて青春を生きた自分を新鮮に圧倒する。今後にも期待!2022/04/21
kinnov
22
献本。2編の中編。『シラナイカナコ』で描かれたあの感情が染みた。新興宗教を信じる集団にいたから、等とは関係なく、独り孤独を感じている時に縋りつく微かな優越と攻撃的な意識と、裏腹な恐怖が混じり合った醜悪なカオス。その発露になった行動は、私にはとても理解できるモノだ。表す言葉のない混沌とした感情は、10代で失ったつもりだった。著者の年齢だからこそ形にできた"あの頃"の小説。スピードと摩擦と優しさと諦感、絶望と希望が力強くしなやかに一つになって目の前を駆け抜けて行く、そんな一冊だった。2022/04/09
のれん
22
読書メーター献本にて読了。 2本の中篇にて構成されてるが、共通するのはキャラ全員が他人に不安を抱えてることだ。 前半のバンドは人生が見えないことに不満を募らせ、後半のカルト家族は人生を見つけられないことを嘆いた。 ただ展開は苛烈でも、文章はシンプルで執着心もなく読みやすい。その淡々さが激変する夢のない環境や自分に対しても「そういうもの」で受け入れてしまう力強さがあった。 ままならないことも後悔も、未来の不安もあれど、人生はたった一つの佳作なのだ。2022/03/28