出版社内容情報
第160回芥川賞受賞作
それでも君はまだ、人間でい続けることができるのか。
あらゆるものが情報化する不穏な社会をどう生きるか。
新時代の仮想通貨小説。
仮想通貨をネット空間で「採掘」する僕・中本哲史。
中絶と離婚のトラウマを抱えた外資系証券会社勤務の恋人・田久保紀子。
小説家への夢に挫折した同僚・ニムロッドこと荷室仁。……
やがて僕たちは、個であることをやめ、全能になって世界に溶ける。「すべては取り換え可能であった」という答えを残して。 ……
内容説明
それでも君はまだ、人間でい続けることができるのか。あらゆるものが情報化する不穏な社会をどう生きるか。新時代の仮想通貨(ビットコイン)小説!第160回芥川賞受賞!
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
623
第160回(2018年下半期)芥川賞受賞作。ここ数年の芥川賞作の中では、最も将来性のある作家、作品かと思う。選考委員の評価は分かれるものの、題材も表現もこれまでには見られないものだ。何よりもヴァーチャルな世界とリアルな世界との境界が曖昧なところがいい。僕とニムロッドと紀子のヴァーチヤルな対談後に全てが崩壊するところもいい。確かに選考委員が指摘するように、「駄目な飛行機コレクション」のように、未完成な部分はあるだろう。しかし、この作家には大いなる将来性を感じるのである。2019/10/30
absinthe
411
駄目な飛行機はその象徴であるが、世の中は使われないものであふれている。それは、仮想通貨のトークンのように、生まれなかった子供のように、実現されなかった設計図のように、読まれなかった小説のように、静かに降り積もる。地層の中には滅びたものたちの痕跡が積み重なっている。それが世界。技術者としては、最終製品にならなかったプロトタイプは沢山目にしており、その姿は自然な世界に感じられる。必要なことだけをするのが人間だったら寂しいよね。上田さんの心配とは反対に、世の中はより無駄なものが増えている。2019/11/05
zero1
314
これぞ現代的な虚無の世界に住む人を描いた純文学?サーバー提供会社に勤務する主人公がビットコイン(仮想通貨)の採掘担当に指名される。最初は儲けが出るものの、徐々に少なくなる。彼女が話す染色体異常と堕胎にバベルの塔など共感できず。何度も出てくるダメな飛行機の話は【サボり】でしかない。本書で【桜花】を知った読者が多い点を危惧する。石原閣下が選考委員なら【言葉の遊び】と斬り捨てるだろう。こうした作品を称賛し選ぶから(後述)、芥川賞は一般人に理解されない。私はこの作品を評価しないし再読したいとも思わない。2020/04/06
抹茶モナカ
289
芥川賞受賞作という事で手に取った。仮想通貨をテーマにした作品。登場する小道具が非常に現代的で、そのツールで芸術しようとする心意気を感じる。仮想通貨の成り立ちと、小説の成り立ちが繋がって、一種、あらゆる作家へのレクイエムのよう。断章形式で虚無感たっぷりで、女性とクールな関係を結ぶ主人公。村上春樹さん的な作品でもあり、間違いなく、村上さんから多くを学んだ世代の作家の作品である印象。ビットコインには詳しくないので、小説からの印象でしかないけれど、日進月歩の分野のようでもあり、個人的には関わらない分野だと思った。2019/02/14
ケンイチミズバ
275
駄目な飛行機というタイトルのメールが届く。アイデアだけで実用性のない開発事例の数々。駄目な開発は成功の礎となったのか?存在意義のない存在、自虐、自己投影なのだ。自分みたいに。駄目だった結婚が一流商社キャリアのその後に意味をもたらしたのかどうかわからない。口にしかかって口を閉ざす。ダメなままじゃないのかという不安が終始漂う中、気持ちを分かち合える中本、紀子、小説家になれないままの荷室。思い描いた人生じゃない、この先も成功がないとどこかでわかってからは考えないように生きている人は世の中にごまんといると思う。2019/02/01