出版社内容情報
著者、広瀬浩二郎さんは、大阪の国立民族学博物館に勤務。全盲。視覚以外の感覚を総動員して、自分を鍛える修行に励み、琵琶で人の心をうつ「音」を創造した琵琶法師「耳なし芳一」の話からインスピレーションを得た、オリジナルの点字つきさわる絵本。春夏秋冬を視覚以外の感覚で感じてみよう、そしてそれを表現してみよう、ということをテーマにした、著者初めての、子どもを対象にした作品です。
新型コロナウイルス感染症の拡大とともに、そもそもさわるとはどんな意味をもっているのかという、基本的な問いに立ち返ることになったという広瀬さんは、「非接触社会から触発は生まれない」と発信を続けています。コロナ禍においては「さわる」ことがタブーのようなイメージとなってしまったが、目が見えない人だけでなく、誰にとっても本来生きていく上では必要なこと、意味のあること。そんな思いも込めて、いろいろな感触の隆起印刷を用いて、子どもたちがさわることから想像を膨らませることを忘れないように、ということを望んで作られました。イラストも明るくかわいく、とても明解です。見える子も、見えない子も一緒に楽しめる絵本。点字つき。
内容説明
あの手、この手ではるなつあきふゆ、まいにちをたのしむ「さわるくん」。ぼくのなかにも、きみのなかにも「さわるくん」がいる。下の絵をさわってみて!「さわるくん」が本の中でみつけたものだよ。どこにあったかな?
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
がらくたどん
19
「見えない」「聴こえない」を障害という言葉の中に閉じ込めたくない。外部認知感覚器は五つあるんではなかったのかい?「さわるくん」が白杖をもって四季の音を集めに行く小さな絵本。目を閉じてページの端から触ってみる。ザラザラした頑丈なものがグングン伸びてその先にキュッとまあるい固まりが出来たと思ったらそのまた先に柔らかいものがひらひらと。うわ~花が咲いた。視覚だけだったら「あ、桜の木」で終わってしまいそうなシンプルに「見える」一コマに潜む豊かな情報量に驚く。十人十色のセンサーで世界を知るのはきっと楽しい。2021/11/28
spatz
11
さくらは、かたくて、やわらかい 意味が反対の形容詞が常に対になってあらわれる。QRコードで作者のお話を聞きました。さわるくんのモデルの一人はぼく(広瀬さん)。みなの体の中に眠っている杖。視覚に頼らずに生きる試み。白い杖は目の見えない人のためのもの、という固定概念をかえたい。杖で地面を叩いてみよう、地球は楽器だ。 モデルのもう一人は芳一。琵琶にあわせて多種多様な物語を語り伝える。平家物語もそうして語り継がれた。可視化=進歩という考え方を、100年以上前にラフカディオハーンは、疑義を呈していたのかもしれない。2022/01/15
遠い日
7
「てんじつきさわるえほん」シリーズ。変わった造本で、綴じておらず、一枚の大きな紙のようにびろ〜んと広げて読むこともできる。今回は裏にも広瀬浩二朗さんのあとがき「21世紀版「耳なし芳一」」が収められている。手の感覚の不思議さを「さわるくん」を通じて再現。持った白杖の意味にも触れられている。誰もが持っているはずの目に見えない感覚を引き出すアイテムとして、わかりやすいことばで説明がある。手で触れることで、その時その時の感覚が際立ち、引き出されていく。だから、手で聞くことも、味わうことも、嗅ぐこともできるのです。2021/11/05
遠い日
2
#NetGalleyにて再読。デジタルであの隆起印刷をどのように見せるのか興味に駆られて。見てちゃんと感じ取れるように質感のある写真でトライ&解決。紙の本は変わった造りで、一枚の大きな紙として広げられる。裏には作者の広瀬浩二郎さんの「あとがき」。さすがにそれは再現できませんが、代わりに巻末のQRコードから「聴く」ことができる。聴いてびっくり!読んだ時より鮮明にことばが流れ込んでくる。未だ続くコロナ禍の世界で、非接触を強要されるかのようなあり方への疑問の提示は小気味いい。触ることで開かれるものもあるのです。2022/01/14
のんたろう
1
文章は点字に、絵には凹凸をつけて、触って感じる絵本。作者は13歳のときに失明して以来、40年以上を全盲で暮らしてきた文化人類学者。白杖で地面をたたくと、同じ道でも温度や湿度で音が微妙に変わるそうだ。なんて鋭い感覚を持っているのだろうと驚く。目をつぶって触っても、私には凹凸は感じられても形がよくわからないが、こういった本があることで、見えない世界を思うきっかけにもなるだろう。これからもたくさん増えるといいと思う。2022/01/30