出版社内容情報
初期キリスト教会最大の思想家にして,西洋の思想文化形成に計り知れない影響を与え続けた聖アウグスティヌス.ローマ帝国末期の激動の時代に生きた,ヴェールに包まれた聖人の実像を描く.
内容説明
「西欧の父」アウグスティヌス(三五四‐四三〇)。『告白』『神の国』などの著作をはじめ、永遠なる神を前にして人間の「心」を深く見つめるその思索は、自由意志の問題、悪の原因について、さらには時間論にまで及ぶ。激動のローマ帝国末期、哲学と信仰を架橋し、知の探究をとおしてキリスト教の道を歩んだ生涯を描く。
目次
第1章 アフリカに生まれて
第2章 遅れてきた青年
第3章 哲学と信仰と
第4章 一致を求めて
第5章 古代の黄昏
終章 危機をくぐり抜けて
著者等紹介
出村和彦[デムラカズヒコ]
1956年東京都生まれ。1979年東京大学文学部卒業。1989年東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学、岡山大学文学部講師、オーストラリアカトリック大学客員研究教授を経て、岡山大学大学院社会文化科学研究科教授。専攻は哲学・倫理学・キリスト教思想史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ta_chanko
25
「悪」の由来は神にあるのではなく、人間の自由意志による選択にある。だからこそ人間は、神の恩寵にすがって生きていかなければならない。若い頃に放縦な生活をしていたことや、善悪二元論的なマニ教を信仰していたからこそ、キリスト教に回心した後、このような結論に至ったのだと理解した。ゲルマン人によるローマ劫掠も衝撃的だったのだろう。人は辛い境遇におちいったときにこそ、純粋な信仰を求めるのかもしれない。2023/06/13
さえきかずひこ
21
山田晶『アウグスティヌス講話』のあと手に取った入門書。キリスト教回心後のアウグスティヌスがひたすら文章を書くことが強調され記述されており、自らの心の弱さに向き合いながらも、普遍的真理の探究を止めず、絶え間ざる情熱を持って長寿を保った驚異的な人物像がよく伝わってきた。第4章のドナティスト分派の項、第5章のペラギウス論争の項はとても読み応えがあり関心を惹かれた。最後には中世の宗教改革者であるルターやカルヴァンへの影響にも触れ、手堅くまとめあげている。文献案内はさっぱりし過ぎの感はあるが、さらに読書を広げたい。2018/11/10
Porco
20
アウグスティヌスについてきちんと読んだことはなかったのですが、キリスト教神学に興味がなくても、人生に役立つことを言ってそうですね。2018/11/15
mstr_kk
15
2018年に一度読みましたが、中世キリスト教についてもう一度調べたいと思い、入念に再読。以前と同じ感想をもちました。この本は、ほぼ全編アウグスティヌスの人生に沿って記述を進めているため、わかりやすいけれど理論への踏み込みは浅めです。悪や三位一体、永遠については、山田晶の『アウグスティヌス講話』での深い考察を知る者にとっては、ちょっと物足りません。そういうところを山田本よりわかりやすく解説してくれる本がほしいのですが。「心」の哲学者というより、「愛」の哲学者だと思いました。それだとアーレントとかぶるけど。2019/03/04
trazom
14
この本は、アウグスティヌスの生涯を時系列的に辿った物語であり、その思想を分析したり深く解説したりするものではない。「西欧の父」である巨人が、若い頃、同棲中の女性との間に私生児を儲けたり、善悪二元論のマニ教の信奉者であったというのは興味深い。パウロといい、アウグスティヌスといい、前半生との落差の大きさが、その後の信仰のエネルギーに繋がっているのだろうか。二国史観、人間の自由意思、時間意識、正戦論など、アウグスティヌスの中核をなす思想をもう少し丁寧に論考してほしかった気がするが、これが新書の限界かもしれない。2017/12/05