内容説明
電車の行先を訊ねられたのがきっかけで親しくなった中国朝鮮族の女性と過ごした十六年間。実家の「地下教会」での抑圧された日々、日本で砕かれた夢と現実、植民地支配と戦争で分断され、移動を余儀なくされたナグネ(旅人)としての朝鮮族の歴史などを振り返り、東アジアを跨ぎ自立していく女性の姿を描くノンフィクション。
目次
第1章 ハルビンにて
第2章 一九九九年春
第3章 日中韓のはざまで
第4章 朝鮮族と地下教会
第5章 帰国
第6章 ルーツ
著者等紹介
最相葉月[サイショウハズキ]
1963年東京都に生まれる。兵庫県出身。ノンフィクションライター。関西学院大学法学部法律学科卒業。科学技術と人間の関係性、精神医療などを中心に取材活動を行う。著書―『絶対音感』(新潮文庫、小学館ノンフィクション大賞)、『星新一一〇〇一話をつくった人』(新潮文庫、大佛次郎賞、講談社ノンフィクション賞、日本SF大賞、日本推理作家協会賞、星雲賞)ほか(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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どんぐり
68
日本語学校に就学生として来日した中国朝鮮族の女性・恩恵との16年間に渡る交流を描いたエッセイ/ノンフィクション。年々悪化していく日本と中国、韓国の関係。一方、偶然の出会いから身元保証人となった最相と恩恵は、付かず離れずの関係を重ね友人となっていく。朝鮮族であることと中国人であることによって、日本で二重にいわれなき差別を受けながら、日中韓の3か国語を自在に操りながらたくましく生きる恩恵。まるで起き上がり小法師のようだと最相は称する。2014年、二人は恩恵の故郷黒龍江省哈爾浜市に向かう。冒頭はここから始まる。2015/05/01
Miyoshi Hirotaka
30
潮が引くときに潮だまりができ、取り残された生き物が、再び潮が満ちてきた時に動き出す。国家と人の動きもこれに似ている。かつてわが国が朝鮮半島や支那に勢力を拡大した時に朝鮮族も大量に移動。わが国が収縮した際に、出身地に帰還した者の他に、その地に留まることを選んだ者も少なくなく、わが国の在日朝鮮人同様、中国領にも大量の朝鮮族が残った。彼らは、改革開放の膨張に乗じ、中国人として韓国、日本への移動を開始。同族の騙し合いや妬みにもめげず、人の善意を徹底的に利用。結婚すら在留権取得の作戦と割り切る上昇志向が凄まじい。2019/07/17
ぐうぐう
26
最相葉月が知り合った中国朝鮮族の女性との16年間の記録。交流を通して見えてくる朝鮮族の歴史と、朝鮮族の置かれた厳しい現状を通して、日本人の無知から来る差別意識を浮かび上がらせる。中国人と一括りにしてしまいがちだが、中国人であり、朝鮮族である本書の主人公の女性は、中国で、韓国で、そして日本において差別を受けるという境遇を強いられている。(つづく)2015/04/29
izw
20
今日、最相葉月さんの講演があり、この「ナグネ」を読むことと、お店などで外国人に会ったら出身地を尋ねることが宿題となっていた。中国の少数民族に朝鮮族がいることは知っていたが、その実態については全く無知だった。日本にいると「民族」について無頓着である。自分では差別せずに接しているつもりではあるが、「民族」が異なることに関心がいかないので、歴史認識や文化の違いにも気付かず、知らず知らずのうちに神経を逆なでするような言動をとっているのではないかと心配になる。そんなことを考えさせられる一冊であった。2015/09/12
ちんれん
17
中国の朝鮮族の話。朝鮮族面白すぎる。卒論のテーマだったから朝鮮族関連の本はついつい買ってしまう。この本にも、朝鮮族の再移住(韓国人が多く暮らす山東省や北京、上海への出稼ぎや、韓国、日本への出稼ぎで起こる移住)、朝鮮族コミュニティーの崩壊など、面白い話が多かった。2015/04/07