出版社内容情報
「《生きられますか?》と彼は彼女にきいてみた」(野間宏『顔の中の赤い月』)――焼跡から,闇市から,記憶から芽吹き萌え広がる物語.明治・大正・昭和を短篇小説で織るシリーズ第二回刊行の本書には,石川淳・坂口安吾・林芙美子ら昭和21年から27年までの13人13篇を収録.(解説・解題=紅野謙介)(全6冊)
内容説明
「「生きられますか?」と彼は彼女にきいてみた。」(野間宏『顔の中の赤い月』)―焼跡から、記憶から、芽吹き萌え広がることばと物語。昭和二一年から二七年までに発表された、石川淳・坂口安吾・林芙美子らの一三篇を収録。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みつ
28
石川淳『焼跡のイエス』、原民喜『夏の花』、坂口安吾『桜の森の満開の下』のみ既読。戦後数年間の短い期間に発表されたものが収められ、昭和篇1以上に戦争との関連を強く感じる作が多い。フランス人との混血の少女を悼む、一見静謐な鎮魂の物語である『墓地の春』ですら、ユダヤ人墓地について「平和そのものような死の町に、こうした人間の憎悪の形を見る」(p40)との記述がある。『夏の花』は原爆投下後の広島の惨状を抑制した筆致で描きながら、「片仮名で描きなぐる方が応わしい」(p89)として挿入された一節が痛切。大岡昇平の➡️2024/01/25
長谷川透
25
昭和という近代の戦争、それも敗戦に焦点を当てて編まれているように思う。その最たるものが石川淳の「焼跡のイエス」だ。大岡昇平を始め従軍経験があり、戦線を闘った著者が多いことも特徴かもしれない。また、女流作家にしても林芙美子のように従軍作家出身の著者や、戦時下に家族の国際結婚を経験した中里恒子の著作も収めており、一口に戦争文学といっても、様々な視点で捉えられていることがわかるだろう。坂口安吾の「桜の森の満開の下」のように直截戦渦を描いていなくても、時代の不気味さを投影したような作品もある。秀作揃いで大満足。2012/12/20
塩崎ツトム
20
【墓地の春】マリアンヌはあの戦争を体験しなくて幸せだったのか?【焼跡の~】これはイエスが神殿の商人を追い出し、屋台を壊しまくった逸話が元ネタじゃろう。【桜の森の~】「ソラリス」と構造が同じと熱弁したがわかってもらえなかった。【蜆】利害を超えた「凡庸な悪」。【虫の~】昆虫にとって人間の家屋は直線に満ちた宇宙的恐怖の空間だろうと思う。【出征】「もしかしたら大丈夫かもしれない」と期待し、それが悉く裏切られるのが、こっちから仕掛けた負け戦である。今のロシアでも同じ心境の民草が大勢いるんだろう。2024/02/20
壱萬弐仟縁
13
誰が書いたかわからないようにして読み終わってから誰が書いたか確認するというのも乙なもの。時節柄、坂口安吾「桜の森の満開の下」(95頁~)。「男は都を嫌いました。都の珍らしさも馴れてしまうと、なじめない気持ばかりが残りました」(118頁)。田舎者だっていいじゃないか、人間だぬも(みつを)っていう感じ。野間宏「顔の中の赤い月」で、「人生においては、もはや何ものも必要ではない、ただ愛のみが価値あるものであると考える」(141頁)。この一節だが、妙に染み入る箇所。2013/04/19
ネムル
12
敗戦から米軍占領期の終わる52年にまでに描かれた作品のアンソロジー。武田泰淳「もの喰う女」、野間宏「顔の中の赤い月」、梅崎春生「蜆」、あと再読で原民喜「夏の花」が良かった。52年に発表された安部公房の寓話「プルートーの罠」で〆るのはカッコいいし、企画ものとしてキマってるが、作品が特段面白いわけでないのがなんだか……。2017/01/28