- ホーム
- > 和書
- > 社会
- > 社会問題
- > マスコミ・メディア問題
出版社内容情報
理性的対話による市民的公共性のみが民主主義ではない。ナチスの街頭行進や集会、ラジオの聴取が可能にした一体感は、一九世紀とは異なる公共性を創出した。メディア史の視座から日独の戦中期を比較し、現在の問題を照射する。
内容説明
民主化されたプロパガンダ。「ポスト真実」は新しいのか?“参加”と“共感”に翻弄される民主主義。フェイク・ニュースが跋扈する現在を、メディア史的思考が撃つ!
目次
「ポスト真実」時代におけるメディア史の効用
1 ナチ宣伝からナチ広報へ(ファシスト的公共性―非自由主義モデルの系譜;ドイツ新聞学―ナチズムの政策科学;世論調査とPR―民主的学知の“ナチ遺産”)
2 日本の総力戦体制(情報宣伝―「十五年戦争」を超える視点;メディア論―電体主義の射程;思想戦―言説空間の現代化;文化力―メディア論の貧困)
著者等紹介
佐藤卓己[サトウタクミ]
1960年生まれ。京都大学大学院博士課程単位取得退学。国際日本文化研究センター助教授などを経て、京都大学大学院教育学研究科教授。専攻はメディア史、大衆文化論。著書に『『キング』の時代―国民大衆雑誌の公共性』(2002年、岩波書店、日本出版学会賞受賞、サントリー学芸賞受賞)、『言論統制―情報官・鈴木庫三と教育の国防国家』(2004年、中公新書、吉田茂賞受賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おさむ
30
メディア史学者として知られる著者の論文集。なかなか刺激的な題名だが、ファシズムという言葉はかつては良い意味で使われていたこともある歴史を踏まえて、あえて使ったのだという。メディアという言葉はもともと「広告媒体」という意味しかない広告業界用語だった。情報という言葉は戦中、軍事用語として生まれて負のイメージが大きかった。文化力=ソフトパワーという言葉は戦前から使われていた‥‥。言葉のもつ歴史を知ったうえでその軛から解き放たれる大切さ。佐藤氏の一貫した研究姿勢がよく現れている学術書でした。2018/06/25
風に吹かれて
17
新聞・雑誌・ラジオや寄席という笑いの中にまで巧みに宣伝を潜り込ませ為政者の意図を実現しようとする民意誘導について、戦前戦中のドイツ、日本のメディア操作に関わる歴史から解説している。国会での議論より世論調査を重んじているように思える昨今の政治状況。世論調査の結果は少数派になることを嫌う国民の性向により多数派の政治的方向へ均一化する。「広報」というより「公示」である政府の宣伝活動の巧みさ・積極さに惑わされず正当な少数意見が表明できる本当の表現の自由のためにも留意しておくべき問題であると思う。2019/09/05
toiwata
5
終戦前後で断絶があるように見る史観は、虚妄であり他愛ない夢想であると理解できる。ドイツは首都ベルリンでの絶望的な決戦の後、”零時”を経験したが日本はそうではない。基本的には、”ethos”も変わっておらず、そのまま現在に接続されている。全く違うように見えるのはほんのわずかの修飾がほどこされているために過ぎない。一方には充分な合理性があるにもかかわらず、もう一方には現実の制約条件に目をつむる精神論が同居しているのだ。歴史は、善悪醜美の問題ではなく、思惑や願望でもない。2018/06/11
dzuka
3
マス・コミュニケーション学を1900年代前半まで遡ってその発生、発展を解析している。ナチスドイツや、アメリカのニューディールからのマスメディアの戦略的活用そして日本におけるそれらの吸収、戦後への踏襲も分析されている。 学術書のため、前半はついていくのが難しいが、新聞学や宣伝の発展の歴史は、わかりやすい。ナチスだからなんでも研究対象に値しないという立場は本質を見落とすという著者の主張には、首肯せざるをえない。 沈黙の螺旋理論も、今こそ議論されるべき話だし、今のマスメディアの混乱の原因をもひもとく一冊では。2020/08/01
フォン
3
本邦のメディア学の碩学による大著。扱う範囲は日本とドイツのアカデミズム、政府、軍部と多岐にわたるが、総力戦下におけるメディアとハーバーマスが無視するファシスト的公共性の概念から、戦後一般化された通念に疑義を投げかける姿勢は読んでいて痛快。あとがきにあるように筆者のかような神話解体的姿勢は年長の研究者からの反発を呼んだらしいが、それも肯ける。とはいえ、筆者が紫綬褒章を授与されたことは、筆者が本邦アカデミズムにおいてヘゲモニーを獲得したという証左なのだろう。 苦難な道を歩んだ筆者に敬意を表したい。2020/07/29