出版社内容情報
文学は人間存在の始まりから,その傍らに,つねに在った.言葉が発せられ,書きつけられるとき,それが他者にむけて,その心に働きかけようとするとき,文学は生まれる.想像力と共感の力を涵養し,「いま,ここ」にはいない者たちと私たちを結びつけ,人々の新たな関係性と社会,世界との結びつきを書き換えてゆく文学の可能性を,根源から問い直す.
内容説明
文学は人間存在のはじまりから、その傍らに、つねに在った。言葉が発せられ、書きつけられるとき、それが他者にむけて、その心に働きかけようとするとき、文学は生まれる。想像力と共感の力を涵養し、「いま、ここ」にはいない者たちと私たちを結びつけ、人々の新たな関係性と社会、世界との結びつきを書き換えてゆく文学の可能性を、根源から問い直す。
目次
1 文学はどのようにして生まれたのか
2 文学を学ぶことに意味はあるのか
3 文学は社会の役に立つのか
4 文学の未来はどうなるのか
5 何を読むべきか
著者等紹介
小野正嗣[オノマサツグ]
1970年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程満期退学。パリ第8大学文学博士。現在、明治学院大学文学部フランス文学科専任講師。小説家。著書に、『にぎやかな湾に背負われた船』(朝日文庫、2002年、三島由紀夫賞受賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
aika
44
小野さんご自身が文学を心から愛する者として、その思いを確かめるように書かれているのが文章から滲み出ていて、読書が好きという気持ちを全力で肯定してもらえました。無条件に手を広げて私たちを歓待してくれる作品に、読み手の私たちもその言葉に真摯に耳を傾ける責任があるということを厳しく突きつけられたように感じます。読書という馴染みの営為が、時代も土地も越えて世界へと広がると同時に、自身の中の他者へと、奥底へと向かっていく。研究者でもない素人の私が作品に感じたことをもっと大切にしていいんだ、とエールをもらえました。2019/10/16
aika
43
型にはまり、杓子定規に留まりそうな"文学論"を、生き方の次元にまで 引き寄せる小野さんの語り。再読の今回も、身と心にすっと浸透するような心地になりました。作品と読み手の関係を巣穴を作ることになぞらえ、「わたし」と「わたしの中にある他者」を「いま、ここ、ではないどこかへ」と導いていく文学。普段本を手にとり、その中の一文、一言に言葉で表せないほど感動したり、日々生きることを支えられたり、逆に夜も眠れなくなるくらい不安になったり…そんな体験を、小野さんらしいユーモラスで温もりのある言葉が真摯に肯定してくれます。2023/02/26
ハチアカデミー
21
文学を好む者は迷わず手に取ると良い。あなたが何故文学に牽かれるのか、こうも娯楽の発達した世の中に於いて、徒労ともいえる読書を続けるのか、その「理由」のひとつが、理想が本書には書かれている。残念ながらあなたが文学を好まないのであれば、本書は手に取らない方がいい。漠然と抱く文学への疑念の眼差しが、敵愾心がより増幅されるだろう。文学という膨大な言語芸術システムに取り込まれることの幸福がここにある。文学が生まれ持った不幸もここにある。文学とは「巣をつくること」である。それを受け入れられるかどうかは、あなた次第だ。2013/07/29
くまさん
20
ひとたび本を開けば、いまここにはいない他者たち、さらに死者にも会うことができる。それは出口のない「現実」からの一時的な逃避でも迂回でもなく、より深く生と向き合う時間なのではないだろうか。いまの自分が苦しく生活が崩壊しようとしているときにも「他者とのつながりを回復させるために、人はおそらく文学に訴える」。至言だと思われる。生命の危機という極限状態に文学が無力であり、無駄や矛盾をつねに抱えるのが人間であるからこそ、「無用さというものが徹底的に切り捨てられる」戦争状態では物語作品の意味が脱色されてしまうのだ。2018/10/04
メガネ
17
文学も勉強する必要があるかなと思い読んでみました。文学という題ですが、研究者でないわれわれがどう読むかという話でした。なので、自然とやっていることかなと思うこともありました。紹介される本は読んでみたいと思いました。それが、「作者の思考の労苦の成果」を受け取ることになるかわかりませんが。もう少し読み返そう。2014/08/18