内容説明
「議会専制」とは耳慣れない言葉である。民主主義を象徴する「議会」と、その対極にあるはずの「専制」が結びつくのだろうか。しかし、近代中国とりわけ中華民国の時代を通じて、この言葉は「国会専制」「立法専制」等々の表現をとりながら、歴史の舞台にしばしば登場していた。そこには議会(国会)の権力が強すぎること、権限の行使が放縦に過ぎることへの批判が含意されていたのである。本書は、この「議会専制」という言葉をキーワードとして、辛亥革命から中国共産党の一九五四年人民代表大会に至る、近代中国の講会制と立憲政治の歴史を体系的に読み解こうとする試みである。
目次
序論 視角としての議会専制
1 袁世凱政権と議会専制
2 安福国会と臨時約法―世論に対峙する議会
3 孫文の立憲構想―国民大会と立法院
4 馮少山の訓政批判と立法院
5 五五憲草における国民大会と立法院
6 日中戦争下の五五憲草批判と国民大会議政会
7 中華民国憲法と立法院の国会化
8 国共内戦下の立法院と憲法運用―総統・行政院への規制
9 みせかけの議会専制―人民代表大会制の歴史的位相
結論 議会専制の系譜
著者等紹介
金子肇[カネコハジメ]
1959年、島根県生まれ。広島大学文学部卒業。広島大学大学院文学研究科博士課程後期単位取得退学。博士(文学)。現在、広島大学大学院文学研究科教授(歴史文化学講座)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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BLACK無糖好き
19
近代中国の議会制と立憲政治の変遷過程をたどり、「議会専制」という言葉をキーワードに、中国の憲政の特徴を解き明かしている。中村元哉教授の著作と、テーマとしては共通点がありそう。本書は三権分立の視点から、立法権と行政権のせめぎ合いを、孫文・国民党の国民大会構想や共産党の人民代表大会構想も紐解きながら分析している点が肝。議会権力をめぐる国会と政府との関係が議論の中心。◇中華人民共和国の全人代を、見せかけの議会専制として、「多段階間接選挙」の構図を明らかにしている点もポイント。2020/04/05