月経と犯罪―女性犯罪論の真偽を問う

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  • サイズ B6判/ページ数 165p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784826504386
  • NDC分類 326.3
  • Cコード C0036

出版社内容情報

「女性は月経時に犯罪を犯しやすい」というのは本当だろうか。
最近の犯罪学の研究論文でも「殺人、放火、万引、誣告などの激情により犯罪も、この月経時に関連する」と説かれ、マスコミでも「女性に多い重大犯罪は、殺人、傷害、放火です。……放火については月経も原因の一つだとされています。」と容認している。
そして現実には、1974年に西宮市で起きた「甲山事件」では、大阪高検の逢坂検事長と加納次席検事(当時)の職権濫用によるえん罪によって無実の女性が月経を根拠に25年間もの間殺人犯の汚名を着せられている。
月経要因説の根拠はイギリスの女医・ダルトンのPMS診断だが、日本の女性犯罪論の根拠はイタリアの犯罪人類学者・ロンブローゾに負うところが大きいが、その科学的根拠は果たして事実なのだろうか。
松井須磨子の自殺事件や神近市子の大杉榮刺傷事件など明治・大正期から現代まで、事件や犯罪の背後に潜む犯罪の月経要因説の形成過程を具体的な資料にもとづきながら解明する。



はじめに
第一章

犯罪における月経要因説と
〈新しい女〉たち/アナーキスト大杉栄を刺した〈新しい女〉神近市子/〈変態性慾〉研究の先駆者クラフト=エビング/月経時の芝居見物は精神疾患を招くのか/〈タブー〉から〈富国強兵の礎〉へ/女優松井須磨子―自殺現場に残された〈一滴の美しい血〉/渡辺淳一『女優』に描かれた須磨子の月経/松井須磨子、自殺の真相/与謝野晶子も襲われた〈ある時期〉の猛烈なヒステリー/謎の病〈ヒステリー〉の正体
第二章 女性犯罪論の起源
ロンブローゾ―売春婦は生まれながらの犯罪者/現行犯逮捕の八割以上が月経中?/明治の女子教育論―女子は健康で鈍なのがよい/日本初の女性犯罪学書『犯罪論及女性犯人』/女性犯罪論の古典『婦人と犯罪』/〈幻の名著〉はなぜ生まれたのか/婦人問題論争と『婦人と犯罪』
第三章 猟奇犯罪の時代
猟奇的事件が多発した一九二〇年代/女性犯罪の三要素―ヒステリー・痛覚の鈍麻・月経/『近代犯罪研究』―犯罪の影には女あり/女は〈詐欺顔〉/経血の害悪―植物は枯れ、金属は錆び、犬は発狂/放火は女の犯罪か/女の取調べの際には四週間待て?/〈性的関係〉―大逆事件から万引きまで/〈虚偽の強姦〉多発の真相/男の〈幻想〉、女の〈内面化〉〈利用〉
第四章 生理休暇と精神鑑定
生理休暇と〈犯罪における月経要因説〉/のちの首相片山哲、月経要因説を語る/なぜ〈月経休暇〉ではなく〈生理休暇〉なのか/月経が必ず問われた精神鑑定/〈婦人犯罪〉へのアンチテーゼ
第五章 月経要因説の精神医学的解釈
魔女、悪女、毒婦、狐/〈レズビアンのサド・マゾ〉はホルモンの影響か/女子受刑者たちの犯行時月経状態/初潮・無月経が犯行を決定づけるのか/月経周期の矛盾/はじめに月経不順あり/〈謎の注射〉を無視した精神鑑定/月経は〈性的葛藤〉を想起するのか/月経時の女の仕事を信用しない女
第六章 月経要因説の心理学的解釈
〈迷信〉が月経時の犯罪を招くのか/『旧約聖書』『コーラン』も忌み嫌った〈血の穢れ〉/なぜ女だけが〈血の池地獄〉に堕ちるのか/日本初の女性検事は女をどう見ていたか/〈ネガティブな気分〉はなぜ起こるのか/偽薬効果が意味するもの
第七章 K・ダルトンの〈犯罪におけるPMS要因説〉
〈月経前症候群〉が〈月経前不快気分障害〉に改められたわけ/毛深い女は犯罪者予備軍?
おわりに
引用・参考文献一覧

内容説明

1974年に起きた甲山事件―警察は、事件関係者の女性全員に月経日を申告させ、無実の女性を逮捕する根拠とした。それから30年。今も犯罪学のテキストには、月経と殺人、放火、万引きとのかかわりが説かれている。月経は本当に犯罪の引き金となるのだろうか?神近市子によるアナーキスト大杉栄刺傷事件、女優松井須磨子の自殺など大正時代の事例から、ロンブローゾ以来の“女性犯罪論”、最新の“医学的根拠”までを徹底検証し、“犯罪における月経要因説”の信憑性に迫る。

目次

第1章 犯罪における月経要因説と“新しい女”たち
第2章 女性犯罪論の起源
第3章 猟奇犯罪の時代
第4章 生理休暇と精神鑑定
第5章 月経要因説の精神医学的解釈
第6章 月経要因説の心理学的解釈
第7章 K.ダルトンの“犯罪におけるPMS要因説”

著者等紹介

田中ひかる[タナカヒカル]
1970年東京生まれ。学習院大学法学部卒業後、高校・予備校の社会科非常勤講師を経て、専修大学大学院修士課程で歴史学、横浜国立大学大学院博士課程で社会学を専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー

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Gen Kato

4
これまで「月経」がいかに女性蔑視の視座で語られてきたかがわかる。月経の実態を知らない(論者のくせに真に理解しようともしない)「知識人」たちが「月経」というマジックワードを与えられたことで思考停止に陥ってしまった感(小酒井不木がちょっと嫌いになった)。こうした偏見のもたらす害は、女性が加害者として関わるときだけではすまない。強姦についての記述「被害者が思い切って訴え出ても、まずは『虚偽』を前提に女性の心身の状態、つまりヒステリーや月経が問題視されたのだ」には寒気がした。現代でも起きていますね、こういうこと…2019/05/08

さくら

4
月経と女性は切り離せないコト。忌み嫌われているというのは 何回も目にした内容だ。戦前までのことは紹介されているが、戦後になるとやや薄くなる。著者の考えが個人的にはわかりにくい。2017/05/10

新橋九段

2
こうやってまとめてみると何が何やらよくわからない月経原因説がよくもまぁここまで長年信じられてきたもんだと呆れる。イデオロギーありきでこねくり回された「科学」。2018/11/23

charuko

1
女性蔑視の風潮が生んだ、犯罪における月経要因説と、不確かな〝女性犯罪論〟に対して、古くからの言い伝えや明治以降の文献などを数多く引用して、その真偽を問うたもの。月経中の女性は万引きしやすいとか毛深い女性は罪を犯しやすいとかのトンデモ論文など、笑い話でしかないようだが、現在でもこれらの文献をベースにした主張や発言が多々あることを改めて知った。2012/09/18

ぷくこ

0
「犯罪と月経は関係があるのか」については、現時点では科学的に「ある」とも「ない」とも言えないものであろう。本書を読んではっきり分かるのは「“犯罪における月経要因説”がいかに荒唐無稽で乱暴な議論であったか」ということである。「月経時のヒステリー発作」というものが100年ほど前には一般的に言われていたようであるが、それは社会的に認められていない女性が感情を爆発させる唯一の手段であったため。「月経を言い訳とするしかなかった女性と、そのことを利用して女性を1人前と認めない男性たちの社会」という構図を示した1冊。2014/03/07

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