内容説明
昭和の文学をどう捉えるか。日本近代文学のパラダイムの中で、世界的同時性をもって一勢に開化した昭和初年代・10年代の文学者たちのことばの可能性と多様な表現の展開。モダニズムのあえかな光芒を伝える雑誌『新青年』と江戸川乱歩、久生十蘭…。表現意識に大きな変革をもたらし、戦後から現代までの表現史の基層をなす、梶井基次郎、井伏鱒二、石川淳、太宰治、坂口安吾などを解説しつつ、緊密な仮説を詳細な文献で裏付けて、終りゆく昭和の精神を掬いあげる。次代にむけて近代の文学史の斬新なシフト変換を試みた評論集。
目次
「昭和文学」のために
『新青年』モダニズムの展開(「銀座趣味」の誕生―『新青年』に“都会”を読む;江戸川乱歩と『新青年』;『新青年』が地震で揺れた;昭和モダニズムと『新青年』;久生十蘭をめぐる文芸史的なプロブレマチック)
「私」の変容 虚構への転生(梶井基次郎―その表現史的位置;宿命の観照―井伏鱒二の出発をめぐって;フィクションの螺旋運動―石川淳の出発;太宰治―虚構への転生;小説の小説―その日本的発現をめぐって)
転向の逆説(保田与重郎―倒錯の“精神革命”;転向の逆説―重治、嘉樹、十蘭)