内容説明
さらわれたわが子をさがし、たったひとり旅立つ母。武蔵野を流れる隅田川で待ちうけていたものは……。わが子を求める母の、強い愛情を描いた能「隅田川」の物語。
著者等紹介
片山清司[カタヤマキヨシ]
観世流能楽師。1964年、京都府生まれ。父は九世片山九郎右衛門(人間国宝)、祖母に故四世井上八千代、姉は五世井上八千代といった能と京舞の芸能の家に育つ。幼少から父に、長じて故八世観世銕乃亟に師事。5歳で初舞台以来、全国にて様々な演能活動を行う。最近では舞台制作や海外公演のプロデュースも手がける。平成8年度京都府文化賞奨励賞、平成14年度京都市芸術新人賞、平成15年度文化庁芸術祭新人賞を受賞
小田切恵子[オダギリケイコ]
日本画家。東京都生まれ。女子美術大学芸術学部絵画学科卒業。日本美術院院友。森田曠平、伊藤髟耳に師事。日本画の伝統をふまえながら今日的画風を持ち、さまざまな場で活躍。院展16回入選、春の院展15回入選(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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たまきら
27
地元がタイトルのお話ですが、非常に京都文化に包まれていますよね。能もこれはまだ見たことがないんだよな~。能は仏によって救われる、成仏な結末が多いけれどこのお話はとことん辛いです。子を奪われた親の無力感は、親になるとさらに胸を打ちました。2018/12/05
gtn
25
京から下総まで、今でいえば約五百キロ。一日十キロ歩みを進めたとしても、五十日かかる。道中や宿にはスリや人斬り、峠や山中には盗賊や熊、渡しで不安定な小舟に揺られることも度々あったはず。路銀も底を尽き、「もの狂い」と呼ばれながら、見世物の芸を舞う日々。それほど、子を思う母の情念は深い。現在でも類似の事件がままある。ご家族の心労は如何ばかりか。2023/04/06
ごへいもち
20
読友さん御紹介本。どんなにか哀しかっただろう。絵本の中の周囲の人々が優しいのが救い2019/05/07
ヒラP@ehon.gohon
19
人さらいに連れ去られた我が子を探し歩く、狂気にも似た母親の思いが、とても切なく感じられました。 子のためならば何でもできる、母の気丈ですが、何ともやるせない結末です。 能の世界を絵本に仕立てた物語ですが、内容の深みを崩さず、演じきっている小田切さんの絵に、儚さと雅を感じました。2019/05/12
pino
18
能「隅田川」の絵本版。幼な子、梅若丸をさらわれた母が行方をさがし、旅に出る。都から東国まで、我が子に会いたい一心で歯をくいしばり、ひたすら歩き続ける。着物も擦り切れ、悲しみが顔にしわを刻み、人々から、もの狂いとよばれるほど、必死の形相であった。ようやく辿りついた、隅田川の岸で聞いた我が子の悲劇。母の思いに一瞬、姿を現す梅若丸だったが。物語は余韻を残すことなく、ぷつりと終わる。残された母と読み手の悲しみが空間を彷徨うばかりである。絵は母の感情の枠を超えないように描かれる。添えられた草木や動物が優しく美しい。2012/04/19