消された裁き―NHK番組改変と政治介入事件

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  • サイズ B6判/ページ数 316p/高さ 19cm
  • 商品コード 9784773630039
  • NDC分類 699.21
  • Cコード C0036

出版社内容情報

「女性国際戦犯法廷」を題材にしたETV特番「問われる戦時性暴力」が放送されたのは2001年1月30日。番組は旧日本軍の性暴力を告発する法廷を報道する番組なのに、「天皇有罪」判決や「被害者・加害者証言」「コメンテーターの発言」を消し去った奇妙なものだった。はたして誰がどうやって何を改ざんしたのか。日本の国家責任を歪曲・捏造する歴史修正主義に追随して言論統制を目論む政治権力の介入問題を検証・糾明し、自壊するメディアの危機を訴える。

まえがき 西野瑠美子・金富子

【第1章】女性国際戦犯法廷とその後

1 女性国際戦犯法廷とは何だったのか 一九九〇年代から振り返る――金富子
 「公平性・公共性」を放棄するメディアの自殺行為/「慰安婦」問題を一九九〇年代から振り返る/新たな展開 責任者処罰/女性国際戦犯法廷とは何だったのか/女性国際戦犯法廷の歴史的な意義/「北朝鮮工作」説のウソ/女性国際戦犯法廷とその後/ねつ造されていく歴史認識

2 女性国際戦犯法廷の意義 国際法への貢献 申ヘボン
 歴史に刻まれる画期的な判決/裁判の背景/事実の認定/法的判断/女性国際戦犯法廷の理論的貢献

【第2章】当事者が語るNHK番組改変問題

1 なぜ、NHKを提訴したのか――西野瑠美子
 損害賠償請求の提訴/表現の自由と知る権利/外部圧力の正体/政治家の関与/改変クライマックス/NHKの主張/〝沈黙〟は「言論・表現の自由」の放棄

2 歪められた「改編」の真実――坂上香
 自問自答の末に/企画はNEP21から/一五分で通った四夜の企画/苛酷で厳粛な証言の場に/天皇「有罪」どう伝える?/性暴力の昔と今とを/NHK主導の編集方針/右翼の政治介入の背景と歴史認識――西野瑠美子
 狙われた記憶/「慰安婦」問題を巡る一五年/隣国の信頼を断ち切る政治家の言動/過去から自由になること

3 「天皇有罪」判決を巡って――横田雄一
 性暴力被害者の尊厳回復は焦眉の課題/戦後の神話 天皇に戦争責任なし/「天皇訴追」準備と「菊のタブー」/「女性法廷」が新しく切り開いたもの/沖縄における天皇の責任の追及 『遅すぎた聖断』/性奴隷制で天皇を有罪とした最終判決の理由/「天皇有罪」判決と戦後責任/沖縄分断・差別と「米日」安保同盟への天皇の関与/天皇・安保複合体制の構造的脆弱性/象徴天皇制と民主主義・国際主義/無責任体系としての〈「仕事」天皇制〉

4 NHK番組改ざんによって周縁化されようとしたもの――川口 和子
日本軍性奴隷制問題との関わり 中国山西省の被害女性のこと/番組「問われる戦時性暴力」から消し去られたもの その1/番組「問われる戦時性暴力」から消し去られたもの その2/周縁化の試みは成功しな
い 秦郁彦氏の論難について

【第4章】政治とメディア

1 検閲・改ざん・ねつ造 問われなかった戦時性暴力――米山 リサ
 「改変」再考

まえがき

 二〇〇〇年一二月に開かれた「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」(以下「法廷」)は、半世紀にわたる沈黙を破って声を上げた日本軍性奴隷制被害女性たちの勇気に応えて、国際社会の市民の手で開かれた民衆法廷だった。「法廷」は、ジェンダー偏向により沈黙を強いられ、過去から解き放たれないまま歴史の襞に追いやられてきた被害者たちの声に耳を傾け、彼女たちは「恥」の存在ではなく、当時の国際法において戦争犯罪であった日本軍「慰安婦」制度の被害者であることを明らかにしたのである。「法廷」に参加された被害者は八カ国六四名に上ったが、被害女性たちの証言はそのどれもが「慰安婦」制度の暴力性・犯罪性を浮き彫りにするものであり、戦後、半世紀を経ても癒されない傷の深さを人々に知らしめた。

 ところが、二〇〇一年一月三〇日に放送されたNHK・ETV番組「問われる戦時性暴力」には、放送の二日前に急遽撮影したという「法廷」に批判的立場の秦郁彦氏のコメントが長々と挿入され、番組の中で秦氏は被害者の証言について「どれを見ても一人も彼女たちの証言に証人に立っている人がいない」「私が調べた範囲で一番多いのは、韓国の場合で言えば韓国きなかっただろう。

 その日、証言台に立ったある女性は「奴隷のように連れて行かれ、言うことを聞かないと焼きゴテを体中に押しつけられた」と語った。またある女性は「言葉もそこがどこかも分らない土地に連れて行かれ、逃げたくても逃げることもできなかった」「逃げるなら自殺するしかなかったが、死ぬことさえ失敗した」と語った。「慰安婦」問題を否定する人々は、しばしば「嫌なら逃げればよかったのだ。そこにいたのは自由意志であったからに他ならない」として「商行為」論を裏付けようとするが、「抵抗したら日本兵は生きたいか、それとも死にたいかと脅した。私は生きたかったので諦めるほかなかった。まるで刑務所に入れられた囚人のような生活だった」「自殺することもできず、生きていくために仕方なく彼らの命令に従った」という証言には、生きる自由も死ぬ自由も無かった過酷な監禁の現実が見えてくる。

 去る(二〇〇五年)七月二〇日、NHK裁判の控訴審が開かれたその日、NHKは六九ページにわたる準備書面と番組改変に関わった渦中の人物、野島直樹氏(当時、国会対策担当局長)、松尾武氏(当時、放送総局長)、伊東律子氏(当時、番組制作担当局長)、吉岡民人の意思であったとしても、それは過去の強烈な悲しみと絶望・恐怖に直面することだ。

 消し去った理由が「印象が強いから」というのであれば、それは視聴者・市民に生々しい被害の現実は伝えないということを意味しており、削除は被害の隠蔽だったということになる。被害の隠蔽とは、すなわち加害の隠蔽でもあるのだ。番組改変は、被害と加害を見えにくくし、国際社会が「天皇有罪」の判決を下したことを隠すものだった。それが改変の本質である。

 VAWW‐NETジャパンがNHKらを提訴してから、すでに四年の歳月が流れた。この間、NHKは編集過程に起こったことを審理の対象にすることさえ拒み続けてきた。関係者は沈黙を決め込み、証言台に立った被告側の証人たちにも、真実を明らかにする勇気は見られなかった。その姿は、目に見えない巨大な軋轢に意思をからめとられている抜け殻のように、私たちの目に映った。裁判闘争は、彼らの口を封じている「軋轢」との闘いであったように思う。しかし今年(二〇〇五年)一月、NHKチーフ・プロデューサー長井暁さんの告発、そして『朝日新聞』のスクープで、事態は一変した。不動かと思われた山を動かしたのは「真実」の持つ力組改変の背景に注目し、日本の排外的ナショナリズムの台頭や政治介入の問題、また、介入のポイントであった「天皇有罪」判決を巡り、天皇免責がもたらした戦後のタブーの正体を明らかにし、番組改ざんに浮かび出る女性の周縁化の問題を検証する。更に第四章「政治とメディア」ではNHKが政治家との近すぎる関係を清算し、放送の自律を取り戻すため、番組改変をメディアの視点から明らかにする。

 本書を通じて、NHKという日本を代表する巨大なメディアへの政治介入事件がなぜ起こったのかを、力がこもった上記論文から検証していただければ幸いである。

  二〇〇五年八月三〇日 責任編集者 西野瑠美子・金 富子 

加害の「記憶」を抹殺し、言論統制を目論む権力に抗って真実の扉を開いたジャーナリストたちを孤立させてはならない。

内容説明

誰がどうやって何を改ざんしたのか。NHK・ETV2001番組「問われる戦時性暴力」をめぐる、歴史認識・言論統制の現在、政治権力・メディアの暴力を検証・糾弾。

目次

第1章 女性国際戦犯法廷とその後(女性国際戦犯法廷とは何だったのか―一九九〇年代から振り返る;女性国際戦犯法廷の意義―国際法への貢献)
第2章 当事者が語るNHK番組改変問題(なぜ、NHKを提訴したのか;歪められた「改編」の真実;メディアの公共性と表象の暴力)
第3章 歴史認識とジェンダーの観点から読み解く(日本の排外的ナショナリズムはなぜ台頭したのか;番組改ざんと「記憶」を巡る闘い―政治介入の背景と歴史認識;「天皇有罪」判決を巡って;NHK番組改ざんによって周縁化されようとしたもの)
第4章 政治とメディア(検閲・改ざん・ねつ造―問われなかった戦時性暴力;番組改変事件にみる政治介入問題;〈メディアの危機〉に抗して)

著者等紹介

西野瑠美子[ニシノルミコ]
VAWW‐NETジャパン共同代表。松井やよりの死後、原告である松井の訴訟を承継

金富子[キムプジャ]
青森県生まれの在日朝鮮人二世。現在、韓神大学校教員(韓国)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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