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世界人権問題叢書
シンガポール捕虜収容所―戦後60年・時代の証言

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  • サイズ B6判/ページ数 207p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784750322421
  • NDC分類 210.75
  • Cコード C0336

出版社内容情報

太平洋戦争でマレー半島に出征した英軍兵士は、1942年、シンガポール陥落後日本軍の捕虜となり、屈辱的扱い、過酷な使役から多数の死者を生じた。戦後60周年に“生きて虜囚の辱め”を受けた彼らが書き残している体験を検証し、後世に伝える時代の証言。

まえがき
1 シンガポール陥落
 《1》日本軍の自転車部隊の活躍と制空権の掌握
 《2》英軍のシンガポール防衛態勢の不備
2 降伏とチャンギー戦争捕虜収容所
 《1》5万人を超える捕虜と抑留者
 《2》「マラヤ共産党員」の摘発
3 収容所での生活と使役
 《1》収容所の管理と日本軍との関係
 《2》「世界を平定するという聖なる使命感」
4 食糧と衛生問題
 《1》脚気と赤痢
 《2》セレラン事件と悪化する日本軍との関係
5 泰緬鉄道建設工事
 《1》「枕木一本、人柱一本」
 《2》マラリア、脚気、赤痢、そしてコレラ
 《3》 半数が犠牲になったF部隊
 《4》 捕虜も同情したアジア人労務者の悲惨
6 その他の外地キャンプでの使役
 《1》モルッカ諸島―「海は天皇陛下のものだ」
 《2》北ボルネオのサンダカン―ラナウの「死の行進」
 《3》台湾のキンカセキ銅鉱山―「マギー、マギー」
 《4》タンポイ(マレー半島)のキャンプ―「テイラーの軍律」
7 日本での使役
 《1》日本への移送と米軍潜水艦の攻撃
 《2》日本人も極度の貧窮生活だった
8 終戦まで
 《1》

まえがき
 もう四〇年も前のことになろうか、英国の大学都市ケンブリッジに近いイーリー(Ely)という村にある大聖堂を訪れて、何気なく第二次世界大戦の戦没者の銘板を見ていたとき、中年の紳士が寄ってきて、「チャンギーを知っているか」と尋ねた。「知らない」(ほんとうに知らなかった)と答えると「そうか」と言っただけで、何の愛想もなく立ち去っていったことを思い出す。実は英国ケンブリッジ県からは、太平洋戦争に際して歩兵大隊がマレー半島に出征し、シンガポール陥落後に日本軍の捕虜になって、その中から多数の死者を生じたため、同県はことのほか反日感情が強い地域だった。
 太平洋戦争が終った後、満州あるいは朝鮮半島にいた日本兵や軍属がシベリアに送られ、長期にわたり抑留されて過酷な使役に従事させられ、一〇人に一人の死者を生じたことがよく知られているが、それに比べて、マレー半島やオランダ領東インド(現インドネシア)でも、終戦を迎えた日本兵の多くが一年半以上にわたって抑留され、連合軍によって諸々の使役に従事させられたことはあまり知られていない。
 シベリア抑留者ほど多くはないにしても、これらの日本兵の数は約一〇万名に上り、港におけるなのである。戦争中に連合軍捕虜たちが日本軍から受けた過酷な扱いについては、映画「戦場にかける橋」で多少は察しがつくものの、彼らが労働力として就役した使役キャンプによっては、配置された部隊の半数以上が死亡したことなど、その正確な実態は必ずしもよく知られていないのが実情だろう。そのために連合軍の元捕虜たちの間には、これまで日本政府が意図的に歴史を隠し、その記憶を消し去ろうとしてきたと疑う気持が根強くはびこっている。また対日批判の背後には、英国戦争博物館に第二次世界大戦の欧州戦線に関する展示は無数にあるもののアジア戦線の展示がほとんどないことに表わされるように、自分たちの苦労が英国国内で正当な評価を受けていないと考える元捕虜たちの不満や焦燥感が働いていることも指摘できる。
 そのためか近年英国や豪州では、すでに晩年を迎えた捕虜たちが「生きて虜囚の辱め」を受けた体験を後世に書き残しておこうとする回想録が次々に刊行されており、その数は一〇〇冊を下らないだろう。そのいくつかは日本においても翻訳の上出版されているが、あまり話題になったことがない。ロンドンにある英国戦争博物館(Imperial War Museum)には、英軍の捕虜たちが書にもかかわらず、後年何人もの日本人留学生を世話することによって個人的反日感情を克服しようと努力した類まれな人物であり、その記述に誇張や歪曲は少ないものと考える。またテイラー少佐の回想録も、配下の兵士の規律を厳しく保つことで日本軍の司令官との間に一定の信頼関係を築くことができた経験を記述している点で特記に値すると言える。本書では事実関係をできるだけ忠実に反映するために、この三名が書き残したものを要約して紹介することを柱にして記述している。解説を行うにあたっても、捕虜の目に映ったまま感じたままをできるだけ忠実に表現するために引用を多くするよう心がけた。それに対する著者自身の意見や解釈は、本文よりも注記の中に記述して、できるかぎり本文に主観が入り込まないようにしたつもりである。
 総じて捕虜たちが日本軍から受けた過酷な扱いが強調される中にも、テイラー少佐がその回想録に「彼ら全員が悪人だったわけではない」と表題を付しているように、捕虜と日本兵との間に心の通う交流があったことが少なからず記録されていることに注目したい。
 なお本書の執筆にあたって参考とした英軍捕虜たちの日記や回想録は、精粗まちまちであるが、まとめて

目次

1 シンガポール陥落
2 降伏とチャンギー戦争捕虜収容所
3 収容所での生活と使役
4 食糧と衛生問題
5 泰緬鉄道建設工事
6 その他の外地キャンプでの使役
7 日本での使役
8 終戦まで
9 引揚げと戦後の日本

著者等紹介

杉野明[スギノアキラ]
1934年、静岡市生まれ。東京大学文学部卒。外務省入省、英国ケンブリッジ大学歴史学部研修、英国、インド、パキスタン、韓国等に勤務。国際協力事業団(JICA)総務部長を経て、在連合王国特命全権公使、在チリ特命全権大使を歴任。1997年関東短期大学教授。2002年、JICAシニアボランティア(SV)として、ラプラタ国立大学(アルゼンチン)に派遣(客員教授)。3回の英国勤務を通じ、長年にわたって第2次世界大戦中の元英軍捕虜問題に関与(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。