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唐宋時代の家族・婚姻・女性―婦(つま)は強く

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  • サイズ B6判/ページ数 282p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784750321035
  • NDC分類 362.22
  • Cコード C0022

出版社内容情報

唐の太宗時代に残された「婦は強く、夫は弱い。妻を抑えられないのに人民を治めることはできない」の史料は何を語るのか。唐宋変革期に女性の地位はどのように変化していったか。婚姻・家族関係や夫婦関係、女性の財産権などをめぐる史料の分析から解明する。

まえがき
序章 遺産のゆくえ――女性財産権問題から
 はじめに
 一 女性財産権をめぐる論争
  (1) 代表的史料
  (2) 論争の経過
 二 論争への視点と南宋の裁判の性格
  (1) 論争への視点
  (2) 南宋の裁判の特質
 おわりに
一章 婦(つま)は強く――唐宋時代の婚姻と家族
 はじめに
 一 問題の所在―『名公書判清明集』の場合
 二 唐代の女性と婚姻
  (1) 離婚とその背景
  (2) 「妻族」の存在
 三 小説史料に見る唐宋時代の婚姻と家族
  (1) 唐代伝奇小説に見る女性と婚姻
  (2) 唐代の家族について
  (3) 宋代の家族について
 おわりに
二章 嫉妬する妻たち――夫婦関係の変容
 はじめに
 一 「妬婦」問題の学説―両晋から趙宋まで
 二 「妬婦」問題の歴史的変遷
  (1) 両晋南北朝隋時代
  (2) 唐・五代
  (3) 宋代
 おわりに
三章 「五口の家」とその変容――家族規模と構成の変化
 はじめに
  (1) 研究史について
  (2) 分析の視点
 一 唐代の小説史料に見る家族構造―『

まえがき
 かの唐王朝の基礎が作られた太宗時代、貞観年間(六二七~四九年)に起きた事件である。 

 桂陽県(現在の湖南省)の長官・阮嵩(げんすう)の妻・閻(えん)氏はきわめて嫉妬深かった。ある時、嵩はホールで客と酒を飲み、お抱えの女奴隷に歌を唱わせていた。するとそれを聞きつけた閻氏が髪を振り乱し、裸足で片肌を脱ぎ、刀を振りかざして宴席に暴れこんできたのである。客人たちは血相を変えて逃げ、嵩は長椅子の下に隠れたし、女奴隷もあわてふためいて逃げ去った。
 この事件を知った州の長官・崔(さい)は嵩の勤務評定書に次のように書いた。「婦(つま)は強く、夫は弱い。内は剛(つよ)く、外は柔(よわ)い。一人の妻を抑えられないのに、人民を治めることなどできようはずがない。妻は礼教を修めていないばかりか、夫の精神もどこにあるかわからない。評定は下である」と。彼は中央からの通達によって現任を解かれた。(『朝野簽載』巻四・本書五九頁)

 この事件は当時の認識でいえばかなり辺境地域でのできごとであった。しかし、事件の特異さから多くの人々に知れわたっていたのであろう。これ以後、妻の嫉妬深さや強さを語るときの有名なエピソーり仕切る頭目とされる。彼女は朝から晩まで機織りや飯作りに駆り立てられるだけでなく、夫や姑に対しては命令に従うのみで、さまざまな精神的、肉体的虐待に堪えねばならない。そのうえ婚姻関係解消の主導権は完全に夫の手中に握られており、妻は夫によっていつ放り出されてもよいばかりか、自由に夫の家から出ることもできない。父子関係からいえば、子らには独立した経済はなく、…家族の財産はすべて家父長の名義のもとにおかれ、彼はこれらの財産を支配する絶対的権力を握っているのである。
              張敏杰『中国古代的婚姻与家庭』(浙江人民出版社、二〇〇四年四月) 

 おそらくこうした理解が中国の家族や夫婦関係に対する《常識》なのであろう。そこに描き出された妻や子の境遇は悲惨でみじめなものであった。一九四九年の革命に向かう過程で、毛沢東が打倒対象にした目標のなかに「家父長制」があげられていたのも当然と感じさせる記述である。われわれ日本人の多くもこのように記述されれば納得するのではないだろうか。
 確かに家父長による家族・妻への抑圧は近代中国において大きな問題とされていた。けれどもその実態をどのように理解すればよいのく解明する必要がある。何よりも、社会の基礎にある家族をあいまいな認識のままに放置し、その虚像を前提としたのでは、現代に届く歴史像など築き上げることができないであろう。

 本書では、私の専門に限定されて、唐宋時代を中心とする家族のあり方しか考えることができない。しかしこの時代が中国史上の一つの転換期であることは動かず、唐宋時代に対する認識は近代中国を見通すのに大いに役立つと思われる。またそこには中国だけでなく、日本をはじめとする東アジアの家族を考える手がかりもあるに違いない。さらに、家族にかかわるいくつかの問題、つまり婚姻・男女関係・女性などを考察することによって、家族のあり方を多面的に分析できるようになると思われる。このような作業を通じて、中国史における通説や《常識》を疑い、中国社会の歴史的構造をつかまえる手がかりとしたいのである。
 さらに本書では、この分野の研究が手薄なことを考慮し、できるだけ多くの史料を提示することとした。また、その史料もあえて現代日本語に訳してみた。それは家族問題に関心をもつ一般の読者や中国史を専門としない研究者、あるいはこれから研究を始めようとする人のお役に立てればと願っての

目次

序章 遺産のゆくえ―女性財産権問題から
1章 婦は強く―唐宋時代の婚姻と家族
2章 嫉妬する妻たち―夫婦関係の変容
3章 「五口の家」とその変容―家族規模と構成の変化
4章 衰退する家族―『名公書判清明集』の場合
終章 むち打つ者と打たれる者―家族から世帯へ

著者等紹介

大沢正昭[オオサワマサアキ]
1948年仙台生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程中退。奈良大学専任講師、埼玉大学教養学部助教授を経て上智大学文学部教授。京都大学博士(農学)。専門は中国前近代社会経済史
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感想・レビュー

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韓信

1
主に筆記小説と裁判史料を用いて唐宋時代の女性の地位、家族の構造と心性、それらの変容を究明する論考。唐代では北族の影響を受けた一夫一妻婚主流の下、族的結合優位で夫婦関係がルーズだったが、従来の漢民族的婚姻関係(一夫一妻多妾制)が復活し、宋代には家族規模が縮小緊密化し、女性の自由も抑圧されていく(畜妾、性別人口バランスが崩れるほどの女児の間引きの横行など)、という大まかな流れは承認できるが、変遷の要因が不明瞭なため説得力に欠ける。宗族との関係を含めてさらなる検討が必要。個人的には仮子問題にも触れてほしかった。2014/01/29

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