出版社内容情報
ケナー,H.(ヒュー)[ケナー]
著・文・その他
富山 英俊[トミヤマ ヒデトシ]
翻訳
高山 宏[タカヤマ ヒロシ]
解説
内容説明
21世紀を予見する批評のスタイル。グーテンベルクによる印刷術の発明いらい、人類の知は書物というメディアのなかに封じられた。小説もまた、閉ざされたテクノロジー空間のなかで、有限な要素を無限に組み換えていく機械である。「電子を通して近代文学を書き直す」作業の出発点となった先駆的名著、待望の邦訳。
目次
ギュスターヴ・フローベール―啓蒙のコメディアン
ジェームズ・ジョイス―目録のコメディアン
サミュエル・ベケット―袋小路のコメディアン
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
三柴ゆよし
25
「有限」という閉じたフィールドのなかで、百科全書的な配列と網羅という機械的筆法を追求してきた小説家の系譜、すなわちフローベール、ジョイス、ベケットの三人を論じた小著だが、かのマクルーハンの弟子というだけあって博引旁証、しかも軽やかな文章は気が利いていてするすると読ませる。愚者の百科全書を構想し、結局は果たせなかったフローベール、ひとつの都市とそこに生起した出来事を時間・空間的制限のもとに書き尽くしたジョイス、極度に限定された状況下における思考の可能性を丹念に消尽させていくベケット……という流れを追うと、2020/08/15
donut
9
印刷術の発展は言語を「閉じたフィールドのなかで規則によって配列される個別の部品」として見るようにストイックなコメディアンたちを促し、彼らは辞書編纂のように、網羅可能=有限の集合(常套句、ある都市のある一日、可能性…等)から要素を選びそれらを一貫した規則のもと書物の中に配列するゲームを実践することで、数学の体系に似た自律的な小説の構築を試みてきた。一読で全て理解できたとは思わないが、個々の作家の試みを引用を交えて解説する箇所などは明快な文章で読むのが苦でなかったことは確か。また読み直したい。2020/09/16
つまみ食い
3
フローベール、ジョイス(とその先駆者スウィフトやスターン)、ベケットを小説という形式と書籍というメディアの枠から捉える。たかだか150ページ強だが、密度が凄い。解説で高山宏が絶賛しているのも頷ける内容。2023/02/09
ルートビッチ先輩
3
書物が印刷されるときに現れるのは同じページを持つ書物と同じ規格を持つ文字である。そのようなものは「参照」という動きをもたらす。フローベールは百科事典を参照しながら参照する人物たちの小説を書いた。ジョイスは書物に文字が配列されることを念頭に置いていた。読者は参照が可能だ。そして書物が印刷されるということが完結をもたらすということでもあれば、その閉じたフィールドの中では、閉じているがゆえに乏しく、閉じているがゆえに豊穣な行いが可能になる(同一フィールド内では網羅が可能だが、同一のことが繰り返し発生する)。2014/12/02
ぎんしょう
3
高山宏の解説を読んでもらえればだいたい分かりますが、ここで紹介すると、百科事典にならって小説を書こうとしたフローベール、既存の語の組み合わせ、更にはアルファベットにまで突き詰めて順列を考えたジョイス、その先を受け継いだベケットという人々の縛られた(ストイックな)領域で書かれた小説の読み方を解説しています。それが印刷というテクノロジーによって発生したものだ、という議論は、高山市が言う通り、1960年代においてかなり先取り。鮮烈かつ、短くまとまっていて読みやすい。2011/12/26