出版社内容情報
マンにとって一生涯芸術的・精神的対決の存在だったワーグナーについての文章を年代順に編集。
内容説明
マンにとってワーグナーの存在は、その一生を通じての芸術的・精神的対決の相手だった。天才ワーグナーの魅力は、マンのトリスタン的情熱をいかにたぎらせたことか!しかし一方、ワーグナーの俗物性はマンにとって耐えがたい憎しみと疑惑を喚びおこした。このアンビバレンツ―無上の賛嘆と冷静な批判、魅力の深淵と知性の明晰、こうした対位法の展開はマンの心の中に芸術家の理解をさらに深めてゆく。本書は、マンがワーグナーについて書いた文章を年代順に編んだものである。
目次
演劇試論(抄)―1908年
リヒャルト・ワーグナーとの対決―1911年7月
非政治的人間の考察(抄)―1918年
あるオペラ劇場監督へ―1927年11月
イプセンとワーグナー―1928年3月
市立劇場の追憶(抄)―1930年
ワーグナーとわれわれの時代―1931年8月
リヒャルト・ワーグナーの苦悩と偉大さ―1933年4月
答弁―1933年4月
K・マルテンスへ―1902年7月〔ほか〕
著者等紹介
小塚敏夫[コズカトシオ]
1918年愛知県に生れる。1944年慶応義塾大学文学部独文科卒業。元東海女子大学教授。専攻ドイツ文学
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感想・レビュー
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kiyo
1
マンがワーグナー論をなんのためにあるいはなにに向けて書いたのかと問えば、ワーグナーと密接に絡みつくナチスがマンの生きた同時代の問題だったからだろうが、それ以上にマンのワーグナーに対する熱狂ぶりが感じられる。だがその考察は鋭い。純粋詩の側からは非詩と攻撃され純粋音楽の側からは非音楽と攻撃されるワーグナーの作品。しかしそこに感動を憶えるのはワーグナーの作品が全体芸術以外の何物でもないという証拠なのだろう。そしてその正体は天才的なものにまで徹底されたディレッタンティズムであると説くマンの洞察力には唯々舌を巻く。2013/02/17