文化と帝国主義〈2〉

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  • サイズ A5判/ページ数 271,/高さ 22cm
  • 商品コード 9784622032045
  • NDC分類 361.5
  • Cコード C1010

出版社内容情報

全2巻完結

-第2巻-
「今日、誰もが、純粋にひとつのものではない。インド人あるいは女性あるいはムスリムあるいはアメリカ人といったレッテルは、せいぜい出発点にすぎなくて、ほんの一瞬でも実際の経験に足を踏み入れるなら、すぐにも忘れ去られてしまうものなのだ。帝国主義は文化とアイデンティティとの混合を地球規模で強化した。しかし、そこからもたらされた最悪の、もっとも逆説的な贈り物とは、人びとに、自分たちがただひたすら、おおむね、もっぱら白人あるいは黒人あるいは西洋人あるいは東洋人であると信じこませたことだ。しかも人類が自分自身の歴史を築いてきたように、人類はまた自分の文化なり民族的アイデンティティをつくりあげる。執拗に連綿とつづくところのいにしえよりの伝統や継続的な居住や民族言語や文化地理を否定できる者は誰もいない。けれどもそのような他者との分離点や相違点に、これこそが人間生活の本質であるかのごとく、こだわりつづける理由は、恐怖と偏見以外にどこにもないように思われる。事実、生存とは、さまざまなものを結びつけることを中心にして達成される。エリオットの言葉を借りれば、現実は「バラ園にいる木霊たち」から切り離して考えることはできない。より実りあるのは――そしてより難しいのは――「わたしたち」についてだけではなく、他者について、具体的に、共感をこめて、対位法的に考えることなのだ。しかし、だからといって、他者を支配したり、他者を分類したり、他者を階層秩序のなかに位置づけたり、またとりわけ、「わたしたちの」文化なり国がいかにナンバー・ワンか(もしくはこの件に関しては、なぜナンバー・ワンでないのか)について、何度もくりかえしていればいいということではない。そうしないことが、知識人にとって、じゅうぶんに価値あることなのである。」

『文化と帝国主義』末尾の、みごとな一節を、ここに引用した。これは故郷喪失者としての知識人のメッセージである。故郷を喪失すること――これは、この節の少し前にサイード自身が引用し、またかつてサイードの敬愛するエーリヒ・アウエルバッハが「世界文学としての文献学」の末尾で引用もした、12世紀ザクセン出身の修道士サン・ヴィクトルのフーゴーの美しい一節「故郷を愛おしむ者は、まだ未熟な初心者にすぎない……完璧な人間は、彼自身の場所を抹消するのである」から採られている。

訳者の大橋洋一氏もまた、「あとがき」にこう書きつける。「故郷は、本来的な異種混淆性を忘却させて、排他的・攻撃的な姿勢の温床になるがゆえに、危険きわまりないものであり、故郷をなくすことのほうが、望ましいこともあるし、そもそも故郷などなかったのではないかと思い知ることのほうが重要ではないか。サイードがいま読まれるべき理由もここにあるだろう。サイードは西洋が、あるいは西洋に端を発した帝国主義が、諸悪の根元だとは思っていない。ただ故郷が、利用のされ方次第で、諸悪の根元になりうることを示してくれたのである――豊富な事例と多彩な語り口によって。」

読者の皆さんは、まずは本書の「豊富な事例と多彩な語り口」を、エメ・セゼール『帰郷ノート』の引用ではじまる1ページ目から読み進められて、先に引用した末尾の一節に辿りついていただきたい。第2巻の本文は246ページ。すばらしい体験になることは、保証いたします。


Edward.W.Said(エドワード・W・サイード)
1935年、イギリス委任統治下のイェルサレムに生まれる。アラブ・パレスチナ人。カイロのヴィクトリア・カレッジ等で教育をうけたあと合衆国に渡り、プリンストン大 学、ハーヴァード大学で学位を取得。現在 コロンビア大学英文学・比較文化教授。 邦訳されている著書に『オリエンタリズム』(平凡社)、『イスラム報道』(みすず書房)、『始まりの現象』(法政大学出版局)、『知識人とは何か』(平凡社)、『世界・テキスト・批評家』(法政大学出版局)、『パレスチナとは何か』(岩波書店)、『音楽のエラボレーション』(みすず書房)、『遠い場所の記憶 自伝』(みすず書房)などがある。

大橋洋一(おおはし・よういち)
11953年名古屋市に生まれる。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。専攻、英文学。現在 東京大学教授。著書『新文学入門』(岩波書店)。訳書 サイード『知識人とは何か』、『音楽のエラボレーション』、イーグルトン『文学とは何か』(岩 波書店)、『批評の政治学』(共訳、平凡社)、『批評の機能』(紀伊國屋書店)、 『ブロンテ三姉妹』(晶文社)、『シェイクスピア』『イデオロギーとは何か』(平 凡社)、ジェイムソン『政治的無意識』(共訳、平凡社)、ジョンソン『差異の世 界』(共訳、紀伊國屋書店)、レントリッキアほか(編)『現代批評理論』(共訳、 平凡社)ほか。


-第1巻-
第1章 重なりあう領土、からまりあう歴史(帝国、地理、文化/過去のイメージ、純粋なものと、混淆的なもの/ふたつのヴィジョン-『闇の奥』における/乖離する経験/帝国を世俗的解釈とむすびつける)
第2章 強化されたヴィジョン(物語と社会空間/ジェイン・オースティンと帝国/帝国の文化的統合/帝国の作用-ヴェルディの《アイーダ》/帝国主義の楽しみ/統禦される原住民/カミュとフランス帝国体験/モダニズムについての覚書)



内容説明

帝国への抵抗、遡航、そして解放の文化へ―、ポストコロニアル時代の課題を、心をこめて語る。フォースター、イェイツ、ファノンなどの作品を“対位法”的に読み解いたサイード渾身の論考。

目次

第3章 抵抗と対立(ふたつの側がある;抵抗文化の諸テーマ;イェイツと脱植民地化;遡航そして抵抗の台頭;協力、独立、解放)
第4章 支配から自由な未来(アメリカの優勢―公共空間の闘争;正統思想と権威に挑戦する;移動と移住)

著者等紹介

サイード,エドワード・W.[サイード,エドワードW.][Said,Edward W.]
1935年11月1日、イギリス委任統治下のイェルサレムに生まれる。アラブ・パレスチナ人。カイロのヴィクトリア・カレッジ等で教育をうけたあと合衆国に渡り、プリンストン大学、ハーヴァード大学で学位を取得。現在コロンビア大学英文学・比較文化教授

大橋洋一[オオハシヨウイチ]
1953年名古屋市に生まれる。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。専攻、英文学。現在東京大学教授
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感想・レビュー

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よきし

0
ゼミ本:今読むと当たり前に見える多くの事柄も、当時はどれほどセンセーショナルだったんだろう。周りくどく明言しないところも多いがそれもまた狙っているのか。もう少しゆっくり読みたかった。2010/12/26

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