内容説明
格差の激しいこの国では、票の売買や違法な生活様式は珍しくない。だが、市民的道徳を貫けば暮らしはよくなるのだろうか。スラムに生きる人々に寄り添いながら、新たな共同性を模索する。
目次
序章 フィリピン民主主義と道徳政治
第1章 分析枠組みの提示
第2章 二重公共圏の形成
第3章 ピープル・パワーをめぐる道徳的対立
第4章 選挙をめぐる道徳的対立
第5章 都市統治をめぐる道徳的対立
第6章 道徳的ナショナリズムの再興
終章 道徳政治を越えて
著者等紹介
日下渉[クサカワタル]
1977年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。九州大学大学院比較社会文化学府博士課程単位取得退学。博士(比較社会文化)。京都大学文学研究科グローバルCOE研究員、京都大学人文科学研究所助教を経て、名古屋大学大学院国際開発研究科准教授。主な業績に「秩序構築の闘争と都市貧困層のエイジェンシー―マニラ首都圏における街頭商人の事例から」『アジア研究』53(4)、2007:20‐36頁(第6回アジア政経学会優秀論文賞受賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Pyonkichi
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フィリピンにおける政治の動態を、フィールド調査をもとに分析した本。中間層は貧困層を無知で退廃的でポピュリストに操られる存在とみなしているが、著者のフィールド調査から浮かび上がる貧困層の政治意識はそうした「非合理」で主体性を欠いたものではなく、部分的には中間層にも共有される「清廉さ」「誠実さ」といった道徳的価値観に基づいたものであることが明らかにされる。そうした道徳をめぐる政治が、深刻な経済格差の解消に結びつかず、社会の分断をむしろ深刻化させていく状況は、フィリピンに限らず普遍的な問題を提起している。2016/12/24
日系フサリア人
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元植民地国家を考えるうえで、「二重公共圏」の概念は大切だなと思った。2021/05/30
抹茶ケーキ
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庶民層とエリート層は異なる「市民像」を持っており、それぞれ自分たちの都合のよいようにその「市民像」を動員してきた。現代フィリピンの政治はそのような観点から動員の対抗という観点から理解できる。みたいな話。かなり長くフィリピンで生活していた研究者のようで、インタビューの記述がかなり厚い。フィールドワークとかの話も読んでみたい。2019/08/04
古典エヴァンジェリスト阪本弘輝
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「市民」と「大衆」という二項対立をベースに、フィリピン政治のダイナミクスを上手く描いた作品。大量のインタビューと理論フレームワークとの双方を上手く組み合わせることで、かなり説得力のある論に仕上がっていると感じました。フィリピン政治は本当にあっちにいったりこっちにいったりで、歴史事象だけ追っているとわけがわからなくなるのですが、この本を読んでだいぶスッキリしました。一方で、前提知識のない人でも読めると思います。2018/01/25