内容説明
フランス革命を生んだ啓蒙の精神と、ナポレオン戦争のもたらす暴力的惨禍とのあいだで、人間の深い闇を見つめたゴヤ。宮廷画家としての出発から、夢・狂気・病に満ちた作品群をへて、晩年の「黒い絵」にいたる創造の過程を、多数の絵画作品や書簡、当時のスペイン社会の状況から跡づける。画家はいかにして、正義の名のもとに行使される人間の残虐さに抗い、近代芸術に決定的一歩を刻んだのか?
目次
思想家ゴヤ
世界への入場
芸術の理論
病とその結果
病からの回復と再びの失墜―アルバ公爵夫人
仮面、戯画、魔法使い
『気まぐれ』の解釈
不可視のものを見えるようにする
ナポレオン軍の侵略
戦争による荒
殺人、強姦、山賊、兵士
平和時の荒廃
希望とと警戒
絵画のふたつのあり方
二度目の病、「黒い絵」、狂気
新たな出発
ゴヤの残したもの
著者等紹介
トドロフ,ツヴェタン[トドロフ,ツヴェタン] [Todorov,Tzvetan]
1939年、ブルガリアに生まれる。1973年、フランスに帰化。ロラン・バルトの指導のもとに『小説の記号学』(67)を著して構造主義的文学批評の先駆をなす。91年、『歴史のモラル』でルソー賞を受賞
小野潮[オノウシオ]
1955年宮城県に生まれる。東北大学大学院博士課程単位取得修了。中央大学文学部教授。19世紀フランス文学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ラウリスタ~
8
ゴヤに関する本を読んでいたつもりが途中から、トドロフのトドロフによるトドロフのための批評が始まる。なんだか、フランスの学者に多いこういった、「私がいかに優れているか」を見せつけるためであるかのような論文ってなあ。まあもちろん、ゴヤの専門家でもなんでもない読者にとっては割と楽に読み切れるからいいのだけれど。2014/10/29
まぶたのあるいきもの
1
ゴヤを啓蒙主義、ロマン主義でありながら、それとはまた一つ違う立場であるというのが、本書の主張。主に「ロスカプリーチョス」「戦争の惨禍」を中心にゴヤの精神世界に入っていく、ゴヤは沢山の戦争や狂気を描いた。啓蒙主義の立場からならば狂気は理性の反対、ロマン主義の立場からならば狂気は一種の神懸かり的なものとして描かれるし、戦争は悲惨でもあるが英雄的なものとしても描かれる。しかし、ゴヤの夜の作品にはそんなところがない。戦争は何も英雄的ではないし、人間を理性と狂気で分かつことはできない。2016/03/04