内容説明
戦後50年間、日本文学史上未曾有の形而上学的思想小説『死霊』を書き続けた埴谷雄高。その少年期から文学的原風景となった戦前・戦中期の左翼体験や獄中体験などを沈鬱な気配のうちに綴った自伝的エッセイ。
目次
影絵の世界(魂の同質性;ロシア的雰囲気;オブローモフとペチョーリンとムィシュキンと「主義者」;ニヒリズムの容器;反抗の「夜」と「昼」―アナキズムとコンミュニズム;「政治への没入」の時代 ほか)
何故書くか
あまりに近代文学的な
カントとの出会い
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゆーいちろー
2
人間の思考の型には「現実」型と「空想」型があって、それを例えると現実型は一本の木を製品としての材木にするようないわば、切り捨ての作業であって、他方、空想型はあるいは盆栽のように人の手を加えつつも、グロテスクであれその存在そのものを鑑賞する行為に似ているかもしれない。思考を享受する側には二つの立場があり、現実型は社会組織に対して有効であり、空想型は個人的なものに対して有効であり、それぞれその逆は成り立ちにくい。このことは、別にどちらが善い悪いではなく、ただそれぞれの思考の力学が向かう方向性が違うだけなのだ。2013/04/07
寛理
1
「ロシア文学全集」の月報に連載されたという変な自伝(読書遍歴)だが、内容は大岡昇平との共著『2つの同時代史』とかぶるところが多い。大岡の愛読者としてはむしろその点で興味を持って読めた。いずれにせよ埴谷の本ではいちばん読みやすい。2021/01/26
amanon
1
初めて読んだ埴谷の著作だが、エッセイという体裁をとっているため、比較的読みやすかった。ただ、やはり独特の癖のある文章…というか、「日本語としてちょっとおかしいのでは?」と思える表現が散見したのも事実。それはともかくとして、戦前の動乱期を文学や左翼活動に没頭して過ごした回想記として単純に楽しめた。とにかく、著者の旺盛な読書欲には素直に感心させられた。それから、左翼活動の前科がありながらも、何とか丼勘定体質の出版社に職を得ることができたというエピソードには、この時代ならではの大らかな雰囲気を感じさせた。2013/06/06