あかんべえ

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  • サイズ B6判/ページ数 509p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784569620770
  • NDC分類 913.6
  • Cコード C0095

出版社内容情報

■■■■『あかんべえ』発刊 著者インタビュー『歴史街道』平成14年5月号より転載■■■■
  ◆私が時代小説を書くようになった理由◆
『あかんべえ』(弊所刊)という、江戸の不思議ばなしを上梓した宮部みゆきさん。
四苦八苦して書き上げたのかと思いきや、案外楽しく書き進めたとか。
テレビ時代劇・時代小説好きから作家の道へ。
そんな宮部さんに、時代ものの魅力、なぜ書いてみたいと思うようになったのか等々、たっぷり聞かせていただきます。
【テレビ時代劇で歴史の流れを教わった】

 父が落語や講談が大好きでして、幼い頃からよく名場面を語り聞かされていました。豊臣秀吉が墨俣で一夜城をつくった話なんて何回も(笑)。講談好きって、誰かに話したいんですよ。私も「うるさいなあ」と思いながらも聞いていたんです。

 父はテレビ時代劇も大好き。ですからわが家では日曜日の晩、家族揃ってNHKの大河ドラマを観るのが恒例になっていました。そんななかで私も、いつのまにか大河ドラマ・ファンになっていたのです。なかでも『国盗り物語』(司馬遼太郎原作)は面白くて、かじりつくようにして観ていました。人間関係が複雑で、当時中学校一年生だった私には、一度観ただけではわからない。そこで土曜日の再放送を観て復習するんです。二回観ると時代背景なんかもよくわかる。織田信長や豊臣秀吉の名前は教科書にも出てくるので知っていましたが、斎藤道三という人を初めて知ったのは『国盗り物語』。あの物語で戦国時代の、そして『草燃える』(永井路子原作、源頼朝と北条政子の物語)で鎌倉時代の基礎知識を身につけたと言ってもいいくらいです。

 大河ドラマではありませんが、倉本聰さん脚本の『赤ひげ診療譚』(山本周五郎原作、NHK金曜時代劇)や、中村吉右衛門さんが演じていた『鬼平犯科帳』(池波正太郎原作)もよかった。映画と違ってテレビ時代劇は、なにしろ手軽に楽しめる。それでいて歴史の勉強にもなるのですからありがたい。最近テレビで時代劇の枠が少なくなっているのが残念でしかたがありません。

 父は必ず原作本も読んでいましたので、私もテレビを観たあと、原作本を読んでテレビとの違いを確かめたり、原作者の他の本を読んでみたりするようになりました。『草燃える』の原作本を読んで以来、永井路子先生のファンになり、小説や歴史読み物を読みあさりました。山本周五郎の本を読むようになったきっかけも、『赤ひげ診療譚』だったような気がします。

 私が育った時代にはテレビ・ゲームはありませんでしたが、今は歴史もののいいゲームがたくさん発売されています。「信長の野望」は名作中の名作ですし、中国ものに至っては、「真・三國無双」なんていうのもある。ゲームの場合、攻略本を読むと歴史の知識がさらに広がります。

 テレビでもゲームでも小説でもいい。好きなものからアプローチすれば、年号なんか覚えなくても、歴史の流れが自然に頭に入ってくるのだと思います。

【毎日眺めていれば、わかることもある】

 中学校時代の私は英米の恐怖小説に嵌まってしまい、いろいろなアンソロジーを読みふけっていました。こういった小説は、大きく括ればミステリーに入るのですが、恐怖小説好きと元来の時代もの好きがあいまって、23歳になった頃には、自分で時代ミステリーを書いてみたいと思うようになったのです。

 そこで小説教室に通い出したのですが、とにかくとても楽しかったです。好きでしたので、最初から時代ミステリーも書きたかったのですが、好きと書くでは大違い。まず距離感がわからず、登場人物を歩かせることができないんです。そんなときに、小説教室の講師をしていらした多岐川恭先生に、「勉強はあとからでもできるから、書きたいことがあるなら、とにかく書いてごらんなさい」、それと「岡本綺堂の『半七捕物帳』をまず読んでみたらどうですか。面白いですよ」とおっしゃっていただいて。

 早速「半七」を探したのですが、当時「半七」は古本屋さんでしか入手できませんでした。しかもかなりの値段でとても手が出ず、図書館にあるものだけを読んで我慢していました。ですから「半七」が復刊されたときは嬉しかったですね。

「半七」を読んで一番勉強になったのは、言葉の言い回しやリズムです。半七と話をする町家のおかみさんや職人の女房の言葉遣いが、それぞれ書きわけられているんです。また「半七」には季節感もよく出ていますし、なにより江戸の町の雰囲気が色濃く漂っていますので、それに浸るだけでも楽しかった。不思議なことに「半七」は、読んでしばらくすると適度に忘れるんです。それでまた読みたくなる。今でもときどき、思い起こしたようにページを開いています。

 百目鬼恭三郎さんの『奇談の時代』という名著に出会ったのも、小説教室に通っていたこの頃のことです。この本は百目鬼さんが日本や中国の奇談を集めたものなのですが、不思議ばなしに興味を抱いている初心者にはぴったりの本。私の二作目の作品「迷い鳩」(『かまいたち』に所収)、そして後に連載することになった「霊験お初」シリーズに重要な役所で登場する根岸肥前守鎮衛は、この本で紹介されていて知った『耳袋』の著者なのですから。

 さて、仕事をしながら作家としてのスタートを切ったものの、一作一作がまさに手さぐりの状態。『本所深川ふしぎ草紙』に収められている連作を始めたのですが、切絵図の見方がわからなくて困り果てました。なんとかならないものかと、友人の東郷隆さん(作家)に相談したら、「見えるところに貼って、毎日眺めていればいいんだよ。五、六年経ったらわかるようになるから」と言ってくださって。そこで早速、座れば見えるところに本所深川の切絵図を貼り、毎日、見るとはなしに見ていたら、六、七年経って、ふとあるとき、わかったような気がした(笑)。毎日眺めることで見えてくることもあるんですね。

【恋に悩んだときこそ、時代小説を】

 多岐川先生の教えのなかには「好きな本を手当たり次第読むこと」というのもあって、当時の私は、山本周五郎や海音寺潮五郎、藤沢周平先生や永井路子先生の作品などを次々に読んでいました。時代小説って面白いですよ。この面白さを、若い人たちにもぜひ、味わっていただきたい。これは書き手としてではなく、私自身が時代小説を楽しみ、時代小説に助けられてきたからなんです。

 いろいろな作品を読んでみてわかったのは、時代小説ほど恋の悩みに答えてくれるものはない、ということ。女性のありとあらゆる恋愛模様が、さまざまな形で描かれています。

 今の若い方は、恋の悩みをインターネットで、全く面識のない方に相談するなんてこともあるそうですが、それもいいけど、時代小説も読んでほしい。どう処すべきか、模範解答とも言えるものがたくさん記されているからです。

 生きている時代が違うんだから、参考にならない、などと思わずに。江戸時代も現代も、人の生き方に、そうそう違いがあるわけではありません。

 それともう一つ、現代小説は現実を反映していて、時代小説は虚構の世界、と思っていらっしゃる読者の方が多いのではないでしょうか。時代ものの書き手として告白いたしますと、むしろ逆で、時代小説ほど、作家が正直に自分をさらけ出せる場はないのです。現代小説では、いろいろと屈託が多くて難しい人間関係も、時代小説だと正直に書ける場合も多い。新しい試みも、時代小説だと思い切ってできるんです。名作と言われる時代小説を読んでいると、そんな発見をする楽しみもありまして…。

【新作『あかんべえ』への思い】

 今回上梓した『あかんべえ』で私は、おりんちゃんという、お化けを見てしまう12歳の女の子を軸に据え、江戸の不思議ばなしを書いてみました。舞台は江戸深川の料理屋ふね屋です。これがただの料理屋じゃないんですけどね。ここで事件が起きる。どんな事件が起きるかは、秘密です(笑)。

 これまで『震える岩』『天狗風』という「霊験お初シリーズ」や、『かまいたち』『あやし~怪~』といった作品で、江戸の不思議ばなしを書き、「霊験お初シリーズ」では、霊感を持つ主人公の孤独、不自由さを描いてきたつもりです。『あかんべえ』では少しハンドルを切り換えて、なぜ亡者を見てしまうのかということを書き込んだつもりです。

 これが今、私の一番の関心事。その答を模索しつつ書き進めていった作品で、今の私が正直に出ている一冊です。

 『あかんべえ』のような不思議ばなしをこれからも書いていきたい。それと『ぼんくら』『初ものがたり』のような事件もの(捕物小説)。この2本立てで、これからも時代ものに取り組んでいきたいと思っています。

 これまで同様、一作一作、書き進めながら江戸の言葉や風俗を勉強していきたいと思っているのですが、読者のみなさんから教えていただくことも多いんです。先日も小説のなかで、うまく嵌めて騙すという意味で「おこわにかける」という言葉を使いました。いろんな史料を読みあさっている間に見つけて、どうしても使ってみたかったんです。物語のなかで、私は町娘にこの言葉を使わせてしまったのですが、これは廓言葉じゃないかとご指摘をいただきました。もちろん事前に調べてはいるのですが、すべてがわかるわけじゃない。私の場合、そんなときは思い切って使ってみることにしています。間違えたら恥ずかしいと思っていると、何も覚えずに終わってしまいますから。

 試行錯誤の毎日ですが、読んだり書いたりしているうちに一つずつでも歴史の知識が増えていくのはとても楽しい。この楽しさを、一人でも多くの方とわかちあいたいと思っております。 (談)
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●可笑しく、怖く、切ない、長編時代ミステリー。

●江戸・深川の料理屋に化け物が現れた。娘・りんがその騒動を探るうち、恐ろしい過去の事件が浮かび上がり……奇 想天外! 長編時代ミステリー。

●おりんの両親が開いた料理屋「ふね屋」の宴席に、どこからともなく抜き身の刀が現れた。成仏できずに「ふね屋」 にいるお化け・おどろ髪の仕業だった。しかし、客たちに見えたのは暴れる刀だけ。お化けの姿を見ることができた のは、おりん一人。騒動の噂は深川一帯を駆け巡る。しかし、これでは終わらなかった。お化けはおどろ髪だけでは なかったのである。
▼なぜ「ふね屋」には、もののけたちが集うのか。なぜおりんにはお化けが見えるのか。調べていくうちに、30年前の 恐ろしい事件が浮かび上がり……。死霊を見てしまう人間の心の闇に鋭く迫りつつ、物語は感動のクライマックス  へ。怖くて、面白くて、可愛い物語のラスト100ページは、涙なくして語れない。

 ▼オーソドックスな時代小説を思わせる始まりだが、物語はミステリーに、ファンタジーへと変化する。ストーリ  ー・テラー宮部みゆきが、その技を遺憾なく発揮した、最高の時代サスペンス・ファンタジー!

内容説明

ここに亡者がいるんです。見えないかもしれないけれど確かにいるんです。怖くて、面白くて、可愛くて…涙が込み上げてしまう感動のクライマックス!最高の時代サスペンス・ファンタジー。

著者等紹介

宮部みゆき[ミヤベミユキ]
昭和35年(1960)、東京都生まれ。昭和62年、「我らが隣人の犯罪」でオール読物推理小説新人賞を受賞、執筆活動を始める。平成4年、『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、『本所深川ふしぎ草紙』で吉川英治文学新人賞、平成5年、『火車』で山本周五郎賞を受賞。平成9年、『蒲生邸事件』で日本SF大賞、平成11年、『理由』で直木賞を受賞した
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

人間万事塞翁が馬ZAWAZAWA

99
読友の【はこちゃん】が宮部さんの時代物が良いと言うので手に取りました。時代物+幽霊でどうかと思いました。が時代物にしては読みやすく、引き込まれました。読後感はよかったというか大満足!!宮部作品は『模倣犯』『楽園』『レベル7』どれを取ってもハズレはありません!!2013/09/04

みかん🍊

88
久しぶりの宮部さんの時代物、509Pの長編だけどやっぱり読み易い、おりんの両親が新たに始めた料理屋ふね屋しかしそこにはたくさんの亡者が住み着く場所だった、熱病で三途の川まで行ったため霊を視る体質になったおりんには亡者たちの姿も声も分かる、彼らを成仏させるため過去の事件について調べたり奔走するおりんだったが人間の悋気もまた恐ろしいものであった。優しい亡者たちとのお別れは寂しかった、それにしてもふな屋はこれから持ち直せるのだろうか。2018/12/14

こうじ

86
⭐️⭐️⭐️⭐️4/5 面白かったし、切ないなぁ〜^_^いいお化けだったら、見てみたい^_^;おりんちゃんはしっかり者で可愛かった(*^_^*)2015/07/26

はる

47
宮部さんらしい、優しくてユーモアがあって、少し怖いお話しでした。少女を助ける幽霊たちが切なくも愛おしい。もう少しテンポ良くてもいいかなと感じる所もありましたが、寂しさと幸福感の入り混じるラストの満足感はさすが。2014/08/22

ひろ20

44
七兵衛に育ててもらった孤児の太一郎は、独立して料理屋ふな屋を立ち上げるが、その建物には「お化けさん」が住み着いていた。そのお化けさん全員を視れるのが娘のおりんで、この子が本当に賢くて愛らしい。お化けさん達を成仏させてあげようとする。若侍の玄之助は、おりんの指南役になって力になってくれるカッコいいお化けさんだ。生きていれば、どうしても嫉妬したり、人を羨んだりしてしまう。生きている人間が一番怖かった。テンポもよく読書感もいい良作でした。 2019/04/29

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