出版社内容情報
ダブリンとロンドンを舞台に、外的世界にうごめく異形の者たちに追跡され、自己の精神の小宇宙のなかに生きようとする人物の悲喜劇を描いた、ベケット文学の原点となった長編小説。
内容説明
ダブリンとロンドンを舞台に、自己の精神世界のなかに生きようとする人物を描いた、ベケット文学の原点というべき作品。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hagen
15
ベケットの初期の長編小説であるらしいが、導入部分から過剰なまでの不毛な言葉の暴挙、遊戯の潮流に意識が押し流される。途中から下手に刃向かっても徒労に尽きると見切ると不思議と自然にその流れに乗る事が出来る。登場する理解不能な曲者達を解説する筈の語り手は、勝手な神話的妄想世界を切り出して、混乱の極みの衒学的状況を作り出す始末。下劣でウイットに富む問答・・「ささやかな霊感的放屁のすべて」「わしの尻の皮でも使え」等々・・翻訳者の妙技でもあうろけど。ジョイスを生んだアイルランド文学の流れの中にその確固たる光彩を放つ。2020/06/25
袖崎いたる
9
ユーモラス。マーフィーってのは働きたくないでござるなヒモなんだが、そいつが放屁のさなかの絶頂のうちに焼尽する物語。ベケットのユーモアに触れられる一冊。2019/05/24
roughfractus02
6
小説は純粋存在言明と単称言明の間を揺らぐようだ。マーフィーの恋人シーリアが祖父のケリーに会いに行くと突如記述のモードが変わり、得体のしれない語り手がその様子を詳細に述懐しはじめる。この語り手は全知の語り手であり、有限な時空と出来事を抜き去り、一般化した純粋存在に置き替える。一方、有限性を奪われたシーリアに合いの手を入れるケリーの言葉は、全知の語り手から逃れて今ここの有限な出来事を示す。が、「操り人形」さながら硬直したシーリアと生き生きしたケリーの喜劇の結末はマーフィーによってすでに予告されてしまっている。2017/07/22
井蛙
5
この天才と形容するほかないベケットの言語感覚によって実現される、古今東西ありとあらゆる言語の冗語法は、すべて生の愚昧・滑稽・虚妄・不毛へと捧げられている。ベケットの、作者としての権勢を大いに振るった言語の独裁的使用法は、いっさいの言語の有用な目的、なかんずくその日常的な目的とは縁を切っている。そこでぼくたち読者は、ベケットがこのような不断の精神的集中を要求する労作を物するにいたった根本的な動機を疑わざるを得ない。その動機とはつまり、言語の使用を通じて当の言語そのものを裏切るというもっとも野心的な文学上の→2021/12/27
Mingus
4
ベケットの作品の中でも指折りで理解不能のマーフィー。もしかしたら今まで一番呑み込めなかったのではないか…? 他の作品と比べても物語の進行自体は破綻していないし、ベケットに珍しく登場人物1人1人が確立され機能している。にもかかわらず、圧倒的に滑稽で陳腐な話なのだ。それはマーフィーという主人公故なのだろうか。この奇怪な男の滑稽な動向を読者は登場人物たちと共に追っていく。その点に関して本文では"星を巡る冒険"と言及している。故に尚滑稽なのだ。しかしながら我々もどうしてもマーフィーを気にかけないわけにはいかない。2022/12/15