内容説明
人間の運命が無限に反復する―そんな迷宮的世界を描きつづけた作家ボルヘス。本書は、そのボルヘス自身が凝縮・構築した、“ボルヘス小宇宙”ともいうべき珠玉の一冊である。全体は三部からなり、第一部は代表作「アレフ」「死とコンパス」「円環の廃墟」「ボルヘスと私」など自ら選りすぐった20編を収録する。第二部「自伝風エッセー」では、幼少期から短篇執筆の日々までを回想し、さらに第三部で収録全短篇作品をボルヘス自身が注解する。
目次
1 ボルヘスとわたし(アレフ;バラ色の街角の男;アル・ムターシムを求めて;円環の廃墟;死とコンパス;タデオ・イシドロ・クルスの生涯(一八二九‐七四)
二人の王様と二つの迷宮
死んだ男
もうひとつの死
自分の迷宮で死んだアベンハカーン・エル・ボハリー ほか)
2 自伝風エッセー
3 著者注釈
著者等紹介
ボルヘス,ホルヘ・ルイス[ボルヘス,ホルヘルイス][Borges,Jorge Luis]
1899‐1986年。アルゼンチンの小説家、詩人、批評家。ブエノス・アイレスで生まれる。早くから作家を志し、第一次大戦前後、ヨーロッパ各地に滞在し、当時の前衛的思潮であったウルトライスモの一員となる。1921年帰国して旺盛な作家活動に入る
牛島信明[ウシジマノブアキ]
1940‐2002年(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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おおた
20
通称『ボルわた』。自薦短篇集というのは読者の期待から外れていることもあるが、本書はボルヘス入門書にして決定版といえる内容。ボルヘスにまつわる難解な迷宮という印象は、「自伝風エッセー」を読むと一人の本オタクのよるべなさにさらさらと崩れていく。ただただ自分の好きなことを追いかけて、嫌いなことには頭を下げない、その姿勢が実を結んだ努力の人だとわかる。短編の方は「円環の廃墟」「死とコンパス」という代表作からガウチョものまで幅広く採録されている。他の国のボルヘスを手に取る前に、まずはこの一冊を。2016/02/13
月世界旅行したい
14
再読。他人にボルヘスをすすめるならこの本がいいと思うのですが、絶版だそうで。2016/04/24
燃えつきた棒
10
ボルヘス初体験。彼の作品は短編小説がほとんどらしく大変読みやすいので、これからどんどん読んでいきたい。「先生」がボルヘス好きだとのことでもあるし。2014/01/18
roughfractus02
9
ホワイトヘッドが西洋哲学の伝統をプラトンの注釈と捉えたように、著者は自らの文学を注釈と捉える。つまり、作品は自己への注釈となるのだが、その際、注釈する自己とされる自己=「ボルヘスとわたし」が生まれ、一つに統合されないこの関係が、注釈をとめどなく作り出すのだ。さらに、出版された数冊の短編集から著者が自撰した20作品を含む本書では、作品は各々文学の伝統に対する注釈でもある。そのような注釈としての自己の作品にさらに注釈をつける著者は、数え切れぬほどの作品群が繋がる網状空間として、文学の伝統を読者の脳内に広げる。2020/02/29
gorgeanalogue
7
個々の作品は再読。ガウチョ物が多いなあ、と思ったら、解説にちゃんと書いてあった。自伝からは衒いのない、つつましやかな人物像が浮かんでくる。未発表原稿が出てきたとか最近のニュースにあったが、どうなっただろうか。ところで、文庫333ページのマルクス兄弟の訳注は何かのギャグなのか?2020/11/20