内容説明
家事はまるきり駄目だった茉莉の、ただ一つの例外は料理だった。オムレット、ボルドオ風茸料理、白魚、独活、柱などの清汁…江戸っ子の舌とパリジェンヌの舌を持ち贅沢をこよなく愛した茉莉ならではの得意料理。「百円のイングランド製のチョコレートを一日一個買いに行くのを日課」に、食いしん坊茉莉は夢の食卓を思い描く。垂涎の食エッセイ。
目次
貧乏サヴァラン
食い道楽
茉莉流 風流
味の記憶
私のメニュウ
ドッキリ語録
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
青蓮
96
美味いものには辛さもある、苦味もある。生きている歓びや空気の香い、歓びの味、それがわからなくてなんの享楽だーー食にまつわる話を中心にまとめたエッセイ。文章のリズムが独特なので慣れるまで読みづらかったけれど、なんとか読み切りました。茉莉さんは家事はまるきり駄目だったようですが、料理の腕前はなかなかのものだったらしい。本書に登場する料理は今では特別珍しいものではないけれど、当時は目新しくオシャレなものだったようで、読んでいると何か特別な料理に思えてくるから不思議。本当の贅沢を知っていた茉莉さんの感性が光る1冊2016/07/19
ユメ
48
エッセイを読むと、森茉莉はしばしば腹を立てている。その怒りは、たとえ暮らしぶりが貧しくとも贅沢を愛する己のうるさい舌を満足させるのに猛烈な努力が要ることに端を発しているというのだから、筋金入りの食いしん坊だ。その食いしん坊が、確固たる審美眼をもって書く食べ物についての文章に、恍惚とせずにはいられない。冷紅茶、牛酪、シュウクリイム、オムレット、チョコレエト…これらの表記が現代の仮名遣いより麗しく、より美味しそうに感じられるのは、本物の贅沢を知る人が多かった古き世を懐かしむ茉莉の心持ちが移ったのであろうか。2017/09/21
橘
36
面白かったです。本物のお嬢様で、食いしん坊な茉莉さん、自分の好きなものがはっきりしていて、すぐぐらぐらしてしまうわたしは彼女がとても羨ましいです。料理は得意だという茉莉さんの食べ物の描写が美味しそうで…白身魚と野菜のサラダは他のエッセイでも度々でてくるのですが、一番気になる料理です。贅沢って気持ちの持ち様なのですね。料理も、お菓子も、お酒もうっとりでした。2017/09/06
mahiro
35
サヴァランはお菓子でなく有名な美食家の名からだった。お嬢様育ちで家事能力ほぼ0料理だけは情熱を注ぐ作者の美意識満載のエッセイ。森真莉さんの作品は『枯葉の寝床』しか読んだ事のない私だが、読みながら同じ東京出身の杉浦日向子さんの食エッセイと対比していた。シャンとして粋な杉浦さんの文と比べ森真莉さんは例え手元不如意の生活でもどこか浮世離れした自分だけの世界に浸っている耽美な雰囲気がある、カルケット懐かしい昭和レトロ、本当の贅沢は高価な品物を持っている事ではなく贅沢な精神を持っている事だという言葉が心に沁みた。2022/08/09
skellig@topsy-turvy
27
頑固でシニカルな視点も持ってるけど、屈託のない純粋な人。これが私の茉莉さんのイメージだけど、このプチ・グルメ本を読んでて「食いしん坊」というワードも加わった。出てくる料理の一つ一つに愛情を感じるのは、シェフでもあるグルメ(茉莉さん)が誰よりも食を楽しんでいるからだろう。自分の好きなことに対する正直さと丁寧さが滲む文章を読んでいたため、午前様だというのに読了直後の今、台所にさ迷っていきそう。2016/03/19