内容説明
次々に斬新な方法を創り出すイタリアの作家の、型破りな作品。すぐに中断してしまう、まったく別個の物語の断片の間で右往左往する「男性読者」とそれにまつわる「女性読者」を軸に展開される。読者は、作品を読み進みながら、創作の困難を作者と共に味わっている気持ちになる、不思議な小説。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
136
イタリアには、古代から文明基盤がありルネッサンスの巨匠を持ち地に根をはった文化がある。そこの作家はじっくりと作品を練る。レストランでいつ終わるともしれない時間のかかる食事を楽しむように、時間をかけて作り上げられる思考の産物。カルヴィーノもそうしてこの物語を生み出したのだろう。しかし、お皿の数はとても多いのに、おいしいところを食べだした途端に下げられる。ギャルソンに訴えても、彼らはにっこりとしながら次の食事をもってくる。そして半ばでまた取り上げる。はやく「冬の夜ひとりの旅人が」を読み終わらせてちょうだいな。2016/01/21
えりか
47
本が中断される。しかも良いところで。やっと手に入れた続きも実は全然違う内容の本だ。でも、それもなかなか面白い。思わず読み耽っていると、これもまた中断を余儀無くされる…拷問のようだ。でも本の断片だからこそ、私をいつまでも怪しげで幻想的な世界に留まらせる。いつまでも抜け出せない。読めなかった続きは永遠に想像が続いていく。終わりまで読んでしまえば、いつかはその世界から解放されてしまうのだ。本の楽しみ方、読み方ははまさに十人十色。「文学の魔術師」カルヴィーノによって、新しい本の楽しみ方を見つけることができた。2016/12/03
長谷川透
30
何とも他愛のない題名故、この小説が持つ物語は緩いながらもあらゆるベクトルを持っており、開かれた小説のような印象を本を手にしたばかりの読者に与える。しかし、読者は書き出しから出鼻を挫かれる。自由に読みたいと思う読者に対し、カルヴィーノは絶えず「読み方」を規定しおきながら「自由に、気持ちを楽にして」という揺さぶりを加えるのである。この小説が示すところの旅人とは読者自身である。旅人が辿りついた先は、読者自身が辿りついた場所であり、その場所は作中では示唆されず、「男性読者と女性読者の結婚」という謎の結論だ。2012/09/21
TSUBASA
29
再読。10年前に読んだ時は「二人称小説って随分実験的な小説だなぁ」と思いつつ、読むにつれ置いてけぼりになってぽかーんとした。が、再読して思ったのは、この小説が最初だけでなく全編にわたって実験的なアプローチをしているということ。そして新しいアプローチの産みの苦しみを内包しているということ。前に読んだ時は最初で面食らって流されていたけど、その後も常に読者を巻き込んでいく作品の予想外の面白さが見出せた。そして、主人公はあなた(読者)と思っていたが、実のところ主人公は作者ということもできるのかもしれない。2020/01/18
kasim
28
主人公はカルヴィーノの新作を読んでいる「あなた」。ところが読み出した本は乱丁。書店で取り換えると別の物語でまた乱丁。この調子で大学や出版社を回り、果ては世界中を旅するが、そのたびに別の小説の一部しか読めず、しかも新しい方が気になって続きを探す。そこに気になる女性読書家、スランプの文豪、偽翻訳者、国際的謀略まで絡み…。主人公の物語と10の小説の断片が交互に並ぶ構成。ポストモダニズムの教科書で必ず言及されるような実験作なので手が出せずにいましたが、さすが面白かった。思弁的な部分は少しきついけど。2018/02/10