出版社内容情報
遠田潤子[トオダジュンコ]
著・文・その他
内容説明
奈良県南部の秘境の村を通る峠越えの旧道沿いで、細々と営業を続ける「ドライブインまほろば」。ある日、憂と名乗る少年が幼い妹を連れて現れ、「夏休みが終わるまでここに置いてください」と懇願する。一人娘を喪った過去を持つ店主の比奈子は、逡巡の末、二人を受け入れた。だが、その夜更け、比奈子は月明かりの下で慟哭する憂に気付く。震える肩を抱きしめる彼女に、憂は衝撃の告白をはじめた…。
著者等紹介
遠田潤子[トオダジュンコ]
1966年大阪府生まれ。関西大学卒業。2009年『月桃夜』で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビュー。『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベストテン」第1位に選ばれベストセラーに(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ウッディ
244
実父と義父から虐待され、母から無視された小6の憂は事件を起こし、妹の来海を連れて逃げ、寂れたドライブイン「まほろば」で、比奈子と出会う。娘を事故で喪った比奈子と親からの愛情を知らない兄妹の一夏の物語は、彼らの心情を思うと切なく涙が零れた。銀河と流星、慶子や比奈子の母など登場人物の全てが不幸な過去を背負っているが、まほろばで寄り添うことで負の連鎖が断ち切られ、希望ある結末になっているのが救い。十年池の伝説など幻想的なエピソードと共に暗い中にも清涼感ある物語で、面白かったです。2019/04/28
nobby
238
「僕はなんで生まれてきたんやろ。なんで…」幼少から虐待を受け続けてきた少年の繰り返す言葉が哀しくてたまらない…歓声を上げ喜んで受け取ったスニーカー、それが人生で二回目にもらったお土産で一度目はミカンとは切な過ぎる…いろんな子供、いろんな大人がいて、いろんな家族がある、そんな言葉で自分を慰め生きている…こんな悲しい人生を作り出してはいけない…物語全般を笑顔も残しながら軽快に描き、“十年池”という魅惑に結びつけながら光射すラストへ辿り着くのは見事。ただ、生々しく浮き彫りにされる人間の歪曲さばかりが印象に残る…2019/01/04
いつでも母さん
229
酷道にあるドライブインまほろば。まほろばとは素晴らしい場所、住み易い場所と言う。なのに、ここに集った人間の存在や背負った業がただただ哀しい。この子等になんの罪咎があるのかー子供は一人では育たない事を思い知らされる。遠田さんだからきっと重く暗いのだろうと心していたけれど、ここまで救いの無い読書だとは・・とても苦しい。逃げた先にあるのは後悔だけか?希望も見えたはず。その灯りが絶えぬよう比奈子はそこで待つんだ。そこは彼らが還る場所なのだ。2018/11/01
utinopoti27
223
峠はずれの旧道沿いに建つ寂れたドライブインを経営する比奈子のもとに舞い込んだのは、幼い兄妹だった。「僕は人殺しです」・・。愛情を持たない親の虐待に、暗黒の淵へ追い込まれてゆく子ども。事故死した愛娘への贖罪で心を縛り続ける女。親に棄てられ、最愛の弟すら護れなかった双子の兄。遠田作品特有の徹底した重苦しさの中で、誰かから愛される歓び、誰かを愛する幸せ、魂の再生を求めて彼らはやがて奇跡の『十年池』を目指す。生まれなければ良かった命などない。生きることは誰かの希望につながる。そう信じさせてくれる予感が暖かい。2019/05/25
蒼
200
実父と継父の虐待を受ける子供。両親の育児放棄の中互いに支えあいながら成長した双子。小さな頃から兄である事を自分に課して生きざるを得なかった子供。母親の運転事故で三度目の妊娠でようやく授かった子供を喪った娘。「様々な親と子供がいる」だけではすまされない、子供が親が酷道沿いのさびれたドライブインまほろばで出会い、人生が大きく動き出す。相変わらず胸糞悪くなる腐れ外道達ばかりの中、小さな妹を必死に護ろうとする憂に、これ以上酷い事をしないでと祈りながらの読書だった。遠田作品としては希望のあるラストに安堵する。2018/12/27