ドキュメント 崩壊からの出発―阪神大震災5年・「生活再建」への挑戦

  • ただいまウェブストアではご注文を受け付けておりません。
  • サイズ B6判/ページ数 251p/高さ 19cm
  • 商品コード 9784390604345
  • NDC分類 369.31
  • Cコード C0036

出版社内容情報

公式記録に盛り込めなかった被害者やボランティア活動の苦悩、行政の最前線に係わった人々の思いや生の声を詳細に取材し、それぞれが乗り越えてきた課題、また乗り越えられなかった問題は何だったのかを、起こりうる災害へ向けての、阪神大震災の貴重な教訓を記録。

神戸市の地域防災計画見直しなどに参画した渡辺実・まちづくり計画研究所所長と、ノンフィクション作家の小田桐誠さんの共著。
被災者の安否確認、避難所での自治組織の結成、仮設住宅の入居募集の進め方などを、被災者の立場に立ってまとめた。今後の災害に対する備えや被災者支援を考えるうえで貴重な資料になっている。

本書は、大震災のシンボルであった仮設住宅の解消、被災者の生活再建のプロセスを約10ヶ月にわたる丹念な取材・聞き取りを行い、この5年間じっと心の中にしまわれた人々の思いや生の声を聞き、今まで外部には出ていない個人の日記や貴重な資料などを基にして、ドキュメンタリータッチでその謎を解き明かしている。

そこには行政、市民、ボランティアによる震災からの自立、生活再建へ向けての戦いがあり、現行の災害制度の壁を乗り越えた貴重な被災現場のノウハウが凝縮されている。地震の活動期に入ったと言われている日本列島に住む我々が、知っておかなければならない貴重なノウハウ本である。

ドキュメント 崩壊からの出発 ● 目次
 プロローグ
第1章 一九九五年 冬
  奇跡的に助かり小学校へ
  喫煙やケンカなどトラブル続出
  避難所のリーダーに就任
  自転車で市役所へ
  誰が本当に住宅に困っているのか
  二転三転した仮設住宅の募集方法
  県から高齢者・障害者10割優先の指示
  罵声が飛んだ申込書配布作業
  当選発表後の問い合わせに戦々兢々
  神戸と大阪・東京、違いすぎる街の光景
  「このままでは高齢者がバタバタ死ぬ」
  片道四時間歩いて通勤
第2章 仮設コミュニティを支えた人たち
  痒いところに手が届く文書を同封
  応募に濃淡があった大阪府下の募集
  在庫、作業能力の限界を超えた仮設計画
  資料なし・記憶頼りの用地選定作業
  甲子園球場三十数個分の用地選定
  「公平ってなんや」
  難航した用地確保と申込方法の変更
  綱渡りの鍵渡し作業
  高齢者・障害者に必要なハードとソフト
  仮設入居者の住所は安易に教えるな!
  てんやわんやのエアコン設置騒動
  心の支えになった入居者からの手紙
  怒号が飛び交った斡旋日
  徹夜で並んだ常時募集の応募者たち
  弱者優先と若い人の間で
  避難所間の横断的な会合で情報交換
  地元か郊外でも可かで揺れる人たち
  独自の引っ越し部隊動き出す
  避難所から待機所へ
  仲間のいるポートアイランド仮設に自治会を
  入浴中のうたた寝で自治会作りへ
  入居者増に伴う「取り決め」の中身
  ひとりぐらし・夫婦、お年寄りそれぞれの形
  孤独と孤島と死がつながる仮設で
  「ふれあい訪問カード」と「安否確認書」
  孤独死に至る三つの危険因子
  ハンカチ・喫茶とコミュニティを求めて
  山積の相談・苦情に眠れぬ日も
  ボランティアや地域の人の応援を得て
第3章 「生活再建」へ
  「医・職・住」が生活再建のキーワード
  センタープラザの一三階の人々
  住民ボランティア・有識者による「住まい再生」懇
  中間層を意識した現金給付
  言い争いから始まった行政とボランティアの関係
  情報提供と相談を軸にした市外避難者への対応
  「出しゃばるな」と自治会づくりでひと波乱
  複数のボランティア活動に首を突っ込んで
  入居者のニーズは日々変わる
  六ブロックに分けての継続ケア体制
  「知らんところでやっていけるやろか」
  喜怒哀楽をしまい込まずに
  「何か仕事がしたいなあ」
  住とコミュニティをめぐるミスマッチ
  公的住宅を一冊のパンフレットにの一長一短
  仮設住宅からのSOSに対応
  「ハード優先」「後手後手」の批判も
  制度・システムと感情の間で
  本当に「ずっとここで(待機所で)エエ」のか
  「いざ」「もしも」に答えは容易に見つからない
第4章 コミュニティ再構築に向けて
  二年以内の仮設解消発言に「!?」の反応
  相手に合わせた対応で恒久住宅に
  「役所の都合で仮設を出ろというのか」
  オープン・テンダー・タフの精神で
  あらゆる手を尽くした生活支援
  「人と人は仲良くなれない」から始まる
  「カネを出せばいい」ではコミュニティを潰す
  行政の支援でオープンしたグループホーム
  コミュニティは“人づくり"から始まる
  オーダーメイド的な発想が求められる
  「北風」ではなく「太陽」で自立を促す
  今後の目処なしに共通する状況
  自立困難事例に専門家のアドバイス
  仮設解消後に残された課題
第5章 海を渡った仮設住宅
  台湾がやられた!
  仮設、台湾へ
  日本の仮設村「馨薗一邨」
  生きた、阪神大震災の教訓
 エピローグ
  お年寄りに好評だった畳付き仮設住宅
  夢と思いやりを大切に
  生き活きとした仕事づくり・街づくりのために

「崩壊からの出発」刊行によせて
  中華民国総統 李登輝

あとがき
……そんな中で、奇妙なことに思い至った。被災者の目線に立ったノンフィクションとしてまとめているはずの原稿が、読みようによっては住民や行政にとって、災害時の重要なノウハウ本になっているのではないか、ということだ。

 たとえば被災した住民は小・中学校などに避難し、援助物資を分けたり少しでも快適な生活をするために、自主的に、場合によっては渋々自治的な組織を立ち上げる。教室単位、あるいは廊下やいくつかのブロックに分け、その中からひとりずつ代表を選び、教職員やPTA役員、ボランティアとともに対策本部を発足させる。避難所の対策本部は食事、清掃、物資の仕分けなど役割分担を明確にすると同時に、定期的な会合を開く。急に体調を崩す人が出た場合に備え、病院・医療施設との連絡を密にする。トラブル対策のための手順を明確にしておく。

 同様に、仮設住宅の用地選定や募集がどのようにすすめられ、看護婦やホームヘルパーが安否確認や、さまざまな相談にどう対応したか。これらを描いていくうちに、結果的に登場人物の活動ぶりがそのまま、「いつか自分が暮らす街を大震災が襲ったら」ということの備えやマニュアルになったのである。

 大震災が起こると、初動対応や情報伝達などの行政対応に目が向かいがちだ。もちろんこれは、中心をなす大事な点である。しかし、今回の取材、執筆を通じて私たちが学んだのは、被災者が負ったリスクを解決していく延々たる時間経過の中で、いかに変化する問題やニーズに対応できるか、その強靭な精神と柔軟なシステム、そして現行制度の壁を乗り越えるためのノウハウの有無が問われる、ということだった。……

内容説明

いつか、あなたも…災害に立ち向かう市民・ボランティア・行政のためのノウハウがここにある。

目次

第1章 1995年冬
第2章 仮設コミュニティを支えた人たち
第3章 「生活再建」へ
第4章 コミュニティ再構築に向けて
第5章 海を渡った仮設住宅

著者等紹介

小田桐誠[オダギリマコト]
社会・教育問題、流通、メディアなど現代社会の多様なテーマの調査報道で知られるフリージャーナリスト。著書に、『ドキュメント生協』(現代教養文庫)『協同の心 あしたへの力―コープこうべの創造的復興』(コープこうべ)ほか多数
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。