内容説明
胸を匕首で刺された骸が発見された。北定町廻り同心の木暮信次郎が袖から見つけた一枚の紙、そこには小間物問屋遠野屋の女中頭の名が、そして、事件は意外な展開に…(「楓葉の客」)。表題作をはじめ闇を纒う同心・信次郎と刀を捨てた商人・清之介が織りなす魂を揺する物語。時代小説に新しい風を吹きこんだ『弥勒の月』『夜叉桜』に続くシリーズ第三巻、待望の文庫化。
著者等紹介
あさのあつこ[アサノアツコ]
1954年岡山県生まれ。『バッテリー』で野間児童文芸賞、『バツテリー2』で日本児童文学者協会賞、「バッテリー」シリーズで小学館児童出版文化賞を受賞。2011年、『たまゆら』で第18回島清恋愛文学賞を受賞する。児童文学から一般文学、時代小説、スポーツ小説までとその著作ジャンルは広く、多くの読者を魅了している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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KAZOO
145
このシリーズ3作目ですがやはりはずれはなかった気がします。4つの作品が収められていて、主人公3人(商人、同心、その手下)の性格が非常に面白く描けていて起伏があります。とくに同心は性格が若干ねじくれている感じですが本当は人間の弱みなどがよくわかっている気がします。最後の表題作が読み応えがあります。2019/08/08
ちょろこ
132
シリーズ3の一冊。今回は短編集。読む前はちょっと物足りないかなと思いきや、それを払拭する読後感。どれも濃さを感じた。なんだか登場人物達にぐぐっと、より近づいてきた感じかな。伊佐治の家族といい、清之介とおりんとの出会いといい、さらに魅力を感じさせ惹きこむ巻だった。容赦なく、刃のように人の心を切りつける信次郎には今回もひりひりひやひやさせられっぱなし。それでも鋭く斬り込む事件の真相、手腕にまたしても鮮やかに魅せられる。伊佐治の目線が毎回良い。常に人として…の物差しが良い。やめられない魅力がある作品だ。2022/01/16
ぶち
101
弥勒シリーズの第三弾は、連作短編集です。遠野屋の女中頭おみつが、商売仲間の三郷屋吉治が、岡っ引き伊佐治の息子の嫁おけいが、そして遠野屋清之介の娘おこまが、それぞれの短編で事件に巻き込まれていきます。事件が重なっていくにつれ、清之介と同心の信次郎、伊佐治の三人の関係がより緊密になっていくように感じて、物語の厚みが増したように思えます。それにしても、信次郎に対する伊佐治のボヤキが多くなってきて、その可笑しさについつい笑ってしまいます。2022/05/28
じいじ
95
『花宴』で痺れて、追っ掛けはじめた作家。7作目の今作は『弥勒の月』シリーズの第三作。頭の二作は長編でしたが、今作は「花」をモチーフにした4連作ですが、前2作に負けず劣らずの傑作で面白いです。わたしは最終章の表題作が好き。武士の端くれ男と大店の一人娘との熱い恋話。男を立てる娘の一途な心遣いが愛おしいです。夫婦ってものは、切羽詰まってぎりぎりのところで向かい合うのではなく、一日一日を〈やんわり〉と二人で生きていく―。少し遅きに失しましたが、目からウロコの一言です。この作家の時代小説はとても読み心地が良いです。2022/03/02
りゅう☆
95
遠野屋女中頭おみつ、遠野屋と新しい商いを始めた吉治、伊佐治の息子嫁のおけい、おりんの母おしのから見た短編集。殺された男の持っていた紙におみつの名前があったり、溺れそうになった女と手を切ろうとして見つけたのは女の骸、白い夕顔が怖いのはなぜか、そしておこまがさらわれた。容赦なく相手を切り裂き真実を引きずり出そうとする信次郎、柔らかく包み込み意のままに操ってしまう清之介。どちらが危殆なのか?全くタイプの違う男のそれぞれの魅力にどんどん惹かれていく。そして今回は血の繋がりはないけれども母の深い愛情に胸を打たれた。2021/07/30