内容説明
小間物問屋遠野屋の若おかみ・おりんの水死体が発見された。同心・木暮信次郎は、妻の検分に立ち会った遠野屋主人・清之介の眼差しに違和感を覚える。ただの飛び込み、と思われた事件だったが、清之介に関心を覚えた信次郎は岡っ引・伊佐治とともに、事件を追い始める…。“闇”と“乾き”しか知らぬ男たちが、救済の先に見たものとは?哀感溢れる時代小説。
著者等紹介
あさのあつこ[アサノアツコ]
1954年、岡山県生まれ。『バッテリー』で野間児童文芸賞、『バッテリー2』で日本児童文学者協会賞、「バッテリー」シリーズで小学館児童出版文化賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kaizen@名古屋de朝活読書会
256
八重洲ブックセンターで久しぶりに実物を手に取って、自分が2011年にあるところで本書を薦めていた事を思い出しました。解説を児玉清さんが書いていることを当時は意識していませんでした。あさのあつこさんの時代小説は,時代小説嫌いでも読み進められる平易な言葉遣いです。時代小説が苦手な方には,宮部みゆき,赤川次郎とあさのあつこの3人の江戸物、時代小説をお勧めしています。 2013/08/29
KAZOO
161
この作家さんは初めてです。かなり野球がらみの作品を書かれている方、ということは知っていましたがこのような時代小説をシリーズで書かれていたとは?シリーズ最初の作品で今後の主人公となる同心と岡っ引き、嫁さんが川に身投げをした商人である亭主のつながりやその生き様が書かれています。同心はかなりひねくれ者ですが、頭の回転が速い、商人のほうはもと武士らしくかなりできるようですがあまり表情などを表に出さない、という面白さなどがあり少しシリーズを読んでみようという気になりました。2019/07/24
🐾Yoko Omoto🐾
161
あさの作品初読み。見えぬ刀で丁々発止と切り結ぶかのような、男たちの緊迫感のあるやり取りに徐々に顕となる闇に潜む真実。皆、思い通りに生きられぬ人生の激流に抗いもがき、嘆き苦しみ、人の繋がりに自身が救われることもあれば他者に掬われることもある。そして闇が光を呑み込むのか光が闇を照らすのか、望まぬ因果に苦悩する者たちの姿が痛いほど哀しい。闇が深ければ深いほど、切望する光にはどうあっても届かないのだろうか…。ラストでは「弥勒の月」というタイトルがどうしようもないほど切なく思え、涙無しで読むことが出来なかった。2016/04/10
ちょろこ
160
読みやすかった一冊。月夜の晩。発見された女性の水死体。事件性はあるのか真相を追う時代ミステリ。初めてのあさのさんの時代小説は想像以上に読みやすかった。謎めいた小間物問屋の主人を軸に、彼の素性はもちろん、先を早く知りたくなる展開、描き方が巧い。そして情景描写の美、文章に吸い込まれる感覚、ハッと心を足止めされる感覚を味わえたのも良かった。真相はせつない。人が持つやるせない心も垣間見た。良くも悪くも言葉が人を変えるんだな。同心二人の関係もバランスが良い。伊佐治がブレーキ役なのかな。もう少し知りたくなる二人だ。2021/09/15
あすなろ
124
そういえばこの人にも穴が開いている。酷く空ろな穴を抱え、こうして歩いている。人は薄皮のようなものだ。抱え込んだ情念に皮を被せて、辛うじて隠しているに過ぎない。ひょいとした弾みに、皮が破れて生の姿が浮かぶ。06年にスタートしているあさの氏の弥勒シリーズ一巻。これらのセンテンスがこの作品を表装している。闇を描くのが上手い。弥勒シリーズを追いかけよう!2017/02/11