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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
128
従弟の王位継承争いに巻き込まれた妖女による愛と自由と自尊心をかけた復讐劇。求める相手を名前で呼び寄せる妖術が本作の要で、心理描写を表層に留めつつ情景と共に丹念に描いていくことで読み手に深く浸透させる手法は3作目にしてかなりの成熟が見られ、スピリチュアルに傾倒したミステリーとエンターテイメントの推進力を両立させている。幻獣たちが戦場で跋扈し兵士を翻弄する華麗なコーダや、含意に富んだ謎掛けも才気に充ちたもの。人との交流を持たず育ったヒロインの凄まじい愛憎の偏執は、文明社会の溶かし難い氷的意識を映し出している。2023/09/25
電気羊
40
ストーリーラインやプロットだけを書き出したら古典的でありきたりなファンタジックラブストーリーのように見えてしまうだろうが、詩的な文章と織り込まれる寓意が作品の質を高めている。 一級品のファンタジーであることは間違いないが、冒険や劇的なラストを求める人にはおすすめできない。盛り上げるだけ盛り上げておいて途中で尻すぼみになる展開が散見される。 しかし、この作品はそもそもそういうエンターテイメント主義やプロット主義的な作品ではないのだ。 ある意味平凡な物語を高尚なものに昇華させている作者の技量を堪能してほしい。2022/05/10
neimu
32
女性性というものを心理的に読み解く物語の一つ。一人であること、孤独であること、処女であること、娘から母親に、心理的な母親と肉体的な母親の乖離をどのように補填するか、自分自身の内なる聖なるものと性との折り合い。精神性と肉体性のせめぎ合いの中にあって呻吟する孤独。アニマとアニムス、育む母性、飲み込むグレートマザー、名付けと名前の意味、物事の裏と表の関係。様々な側面から、何度でも楽しめる。
榊原 香織
30
アメリカの作家 美しき幻獣たちとともに住む魔女が人間界の争いに巻き込まれる。 美しいファンタジー 高校生くらいで読めばよかった2020/10/06
白義
28
山奥に幻獣たちと暮らし、人の世の戦に関わることを拒んでいたサイベルがその血のさだめにより否応なしに因縁に巻き込まれ、愛と憎しみを知っていく。心理描写が丁寧、かつ鮮烈であり、愛憎の激しさ、恐ろしさ、尊さが幻想世界を構築する魔法と有機的に絡み合っていて、心までこの異世界に飛翔するような心地にさせられる。負の情念渦巻く復讐劇で盛り上げながら、最後はそれすら浄化するような愛と自由の讃歌へと話を導く手腕が凄い。幻獣たちの描写も見事で、ラストの詩的な活躍は、美しく胸に刻み込まれること間違いなし2015/05/17