内容説明
“歴史”とは何か、それはどのような役割を果たすのか―日本が総動員体制へ向かう一九三〇年代、“歴史”は、均一的な「日本人」を主語とする「国民の物語」へと変貌し、その語りを通して、排他的な共同体意識をうみ出していく。島崎藤村の歴史小説や火野葦平の戦記、そして女性たちが記したルポルタージュなど、三〇年代の多様なテキストを取り上げ、それらの語りに、「われわれ日本人」という歴史意識形成のメカニズムを探る。過去/現在を語る装置としての“歴史”のあり方を問い直す注目作。
目次
序章 なぜ、“歴史の語り”が問われるのか
第1章 「歴史」の語り―一九三〇年代の明治維新像(「歴史」を描く三つの領域;『夜明け前』の世界―「地域」から描かれる明治維新 ほか)
第2章 「戦争」の語り―日中戦争を報告する文体(ルポルタージュから戦争文学へ;火野葦平の戦場―『麦と兵隊』『土と兵隊』の文体 ほか)
第3章 「現場」の語り―貧困と啓蒙の一九三〇年代(「現場」からのルポルタージュ;『小島の春』と『女教師の記録』―啓蒙への情熱 ほか)
終章 広島と沖縄戦の語りから―「国民の物語」を超えて
著者等紹介
成田龍一[ナリタリュウイチ]
1951年、大阪市生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程中退。専攻は、近現代日本史。現在、日本女子大学人間社会学部教授。主な著書に、『「故郷」という物語―都市空間の歴史学』(吉川弘文館)、『総力戦と現代化』(編著、柏書房)、『東京都の百年』(共著、山川出版社)、『戦争はどのように語られてきたか』(共著、朝日新聞社)、『歴史学のスタイル―史学史とその周辺』(校倉書房)など
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