出版社内容情報
文化人類学者による「未開社会」の報告はおびただしい数にのぼるが、この本は凡百の類書をはるかに超える、ある普遍的な価値にまで達した一個の作品としての通用力をもっている。
目次
第1部 旅の終り
第2部 旅の断章
第3部 新世界
第4部 土地と人間
第5部 カデュヴェオ族
著者等紹介
川田順造[カワダジュンゾウ]
1934年(昭和9年)東京生まれ。東京大学教養学部教養学科(文化人類学分科卒)、同大学大学院社会学研究科博士課程修了。パリ第5大学民族学博士。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授を経て、現在広島市立大学国際学部教授。著書に『無文字社会の歴史』『口頭伝承論』『声』『ブラジルの記憶』他がある
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
翔亀
58
フランス思想界の構造主義の始祖といわれる文化人類学者の有名な著作であるが、想像を絶する"作品"だ。南米の先住民族の調査旅行記と要約できようが、上下巻の上が終わった段階で先住民族は最後の十ページでやっと登場する有様。おおっと感嘆したのだけ並べると、1)南米への旅の回想がいつの間にやらナチスからの逃避行の話へ、南米の自然の描写がダッカの描写へ等、と「時間と空間が交錯」する。2)世に膨大な文献を引用した博識な作品は数多あるが、これは地質的植生的な自然描写の"引用"が異常なほどに精緻で、或る日の日没描写に↓2015/12/09
ころこ
51
ブラジルにおけるフィールドワークですが、焦点は構造主義のエンジニアではない、むしろ著者の人間的な魅力が映し出されていることにあります。本書でいう著者の人間的魅力とは、快活な人間ではなく、若い情熱を持て余し倦んで決断しあぐねている初期大江健三郎の小説に出てくる人物のような人物像と文体です。「悲しき」ってブラジルではなくて若き日の自分自身だし、対象が自分から外部に移る16章までの前半は、一度は書き留めておきたかったのではないかと想像します。他方で冒頭に「私は旅や探検家が嫌いだ」と書いてしまう、「私は民族学のこ2022/02/15
zirou1984
43
異なる文化について誠実に語ることの困難さ。構造主義の第一人者であり文化人類学者である著者の紀行文である本書を読み始めて最初に感じたのは、そんな印象であった。前半では南米へと向かう以前の回想が大半を占め、エッセイ調とも読めるその本文では逡巡を隠そうともしていない。そう、ここには耽美的口調はあれど自己陶酔は存在しないのだ。それは自らの文化が他より優れているという思い込みに対する批判であり、偏見というまなざしから完全に逃れることは出来ないと知りながら、それでもな向き合おうとする懸命な態度表明なのだと思う。2014/01/19
パトラッシュ
36
この本は紀行文であり、人類学の記録であり、1930年代ブラジルのフォークロアであって小説ではないが、読了後の感想は「失われた時を求めて」に似ていた。どちらも「時間」が主要なテーマだからか。レヴィ=ストロースが体験した数千年変わらぬ暮らしを送る少数民族の生き様を万華鏡のごとく描き出す叙述は、プルーストがパリ上流社交界の情景を印象深く綴っていく語り口にそっくりなのだ。ブラジルの乾いた風と大地に生きる人びとの、完全に停止した時間の圧倒的な現実がプルーストのような時間のざわめきとときめきを生んでいる。(Ⅱに続く)
ドン•マルロー
34
構造主義の第一人者である著者の紀行文。もっとも上巻は旅だちまでの様々な出来事や、ヨーロッパと未開地域の対比などの文明論的考察にページの過半が費やされているのだが。南米先住民のレポートは後半の数十ページのみにとどめられる。他方で、それが未開地域への旅に読者を巻き込む最良の事前準備となるわけだが。異民族も異文化も巨視的に捉えればいずれも他者という一語に収斂されるが、中でも先住民は究極の他者と言えるだろう。彼らと接するなかで文明や自身の物差しを一切もち出すことなく、そっと寄り添おうとする著者の姿勢が印象に残る。2016/06/25