出版社内容情報
やすらぎのひとときに、心にあかりを灯す21話の物語。
◇オオカミの先生の〈ヴァンパイア〉退治
◇五番目のホリーに託されたスープの秘密
◇ギター弾きの少女の恋
◇5391番目の迷える羊
◇予言犬ジェラルドと花を運ぶ舟
◇遠い場所で響き合う夜の合奏
◇天使が見つけた常夜灯のぬくもり
……ほか
中公文庫既刊関連作を含む至福の掌篇小説集。
〈中公文庫創刊50周年記念刊行〉
内容説明
ようこそ、物語の生まれる夜の庭へ―。ひととき日常をはなれ、心にあかりを灯すショート・ストーリー21話。
著者等紹介
吉田篤弘[ヨシダアツヒロ]
1962年東京生まれ。小説を執筆するかたわら、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作と装幀の仕事を手がけている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちょろこ
147
オレンジ色の一冊。吉田さんの紡ぐ物語は夜が似合う。つくづく思う。昼間とさよならした夜の静寂に先ず耳を傾け、何も考えずにどこか遠くてどこか近い世界のおとぎ話をただ一遍ずつ味わう、それが極上のひととき。部屋の灯りが徐々に絞られていき、やがて常夜灯になる瞬間、眠りの入り口でチケットがきられる、そんな感覚が心地よい。それぞれの物語の"この後"をあれこれ想像しながら夢の世界へ。オレンジ色は昼はパワーを、夜は癒しをくれる気がする自分にとっては幸せ色。吉田さんがその色を物語に溶け込ませ言葉で癒してくれた作品。2023/03/02
アン
113
心安らぐ不思議な世界へひっそり誘われる21のショートストーリー。寝る前に数えられる羊の苦悩と幸せ「カウント・シープ#5391」、ギター弾きの少女の恋心と成長「フランカと三つの黒い箱」、天使のお願いと薔薇色の箱に結ばれた「水色のリボン」、ある家に身を寄せたチューバ奏者と少年の習得「合奏」がお気に入り。どこか懐かしく静寂さの中にオルゴールのような音色が清らかに響きわたり、胸の真ん中に慎ましやかな蕾が開くように柔らかな灯がともる。表題作に関連したお話もイノセントなオレンジの香りに包まれ、心がほんのり甘やかに。 2023/02/01
けんとまん1007
96
このオレンジは、どんな味がするのだろう?ほんのりとする甘さと、じんわりと沁み渡る滋味、そんな感じがする。オレンジに限らず、農作物は、手掛けた人の生き方・考え方が現れると思う。食べる人のことを想い、大地のことを想い、1日1日を想うこと。そんなことの詰まった1冊。独特な静かで穏やかな時間が流れている。2023/02/18
nico🐬波待ち中
89
物語には終わりはない…吉田さんの紡ぐ物語はいつだってそう。そっと始まり、さぁここからどうなるのか、というところでプツンと切れる。物語の余韻を引きずりながら、また別の物語へそっと誘われ、次から次へ物語の連鎖が続いていく。物語に出てくる素敵な造語とイラストに、今回も癒やしをもらえた。特に表紙のオレンジの木は、今にも爽やかな香りがこちらまで漂ってくるようで、真っ暗闇をほのかに照らす灯火のようで、心が穏やかになった。素敵な夢の世界に誘ってくれるショートストーリー集。右手と左手の握手の謎にほっこり。2023/02/24
ままこ
83
人はなぜ本を読むのだろう。と問われたら、ここではない何処かに物語が連れ出してくれるからだと私は答えるだろう。吉田さんが紡ぎ出す上質な深みのある21のショートストーリー。空から降りてきた見習い天使が、そっと寄り添って一緒に読んでいるのかもしれないと想像するのも楽しい。不思議で切なくも温かい「小さな光」を放つ物語。読了後、フワッとオレンジの香りが漂ってくるようだ。2023/06/08