内容説明
核戦争で灰燼に帰した地球、疑似生命体へと進化していくロボット、社会システムのために踏みにじられてしまう人間の尊厳、相互に浸透し交錯しあう複数の現実、絶望的状況の中で苦闘を続けるごく普通の職業の主人公たち―デビュー以来、近未来を舞台に悲惨な人間の状況を書き続けてきたP・K・ディックの終末的ヴィジョンの数々。「戦争」をテーマにした日本オリジナル短編集第三弾。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
催涙雨
61
六編うち一編既読。「奉仕するもの」=ロボットの無機物らしい冷徹さを前面に押し出した作品。短編小説ならではの切れ味を感じられる展開が素敵。「ジョンの世界」=変種第二号みたいなモチーフがでてくるぶざまなオルフェウスみたいな時間遡行もの。タイムパラドックスとジョンの幻視がリンクする結末がすばらしい。未読ぶんでは一番好み。「変数人間」=やっぱりSRBは7:6の時点で変数人間であるコールの技術を加味していたのだろうか?本筋の人間模様はもとよりこういった機械と変数のパラドックス的な関係性も面白味のひとつ。2019/02/10
ニミッツクラス
9
93年の税込520円の2刷で、初版から2ヶ月での増刷となる。新潮文庫のディック3巻の3巻目で、カバーは今回もギーガー。表題をテーマとした浅倉氏訳の6編を収録で、うち3編が初訳。「歴戦の勇士」は「ウォー・ヴェテラン」の新訳、「ジョンの世界」も新訳、「奉仕するもの」は雑誌初出だから書籍デビューとなる。「ジョンの世界」は「変種第二号」の後日談的世界、「変数人間」は「太陽クイズ(=偶然世界)」の前日談的世界と、読ませてお買い得感のある一冊。もちろん蘊蓄とは無関係に面白い内容で、新潮は続けて欲しかった。★★★★☆☆2018/02/14
記憶喪失した男
4
「変数人間」はディック短編ベスト10に入れる。
ヒカル
3
短篇集。映画の元ネタになりそうな話も。「変数人間」ってタイトルからしてナイス。2015/05/17
紅葉まんじゅう
3
「どっちつかずでいることは、かならずしもマイナスじゃない。スローガンにも、政党にも、いろいろの信念にも、なんの意味も見いだせないことは、それじたいがそのために死ぬ価値のある信念になりうる」『傍観者』宗教との縁が薄い人にとっての宗教戦争だって、言ってしまえばこんなものだし……現実の世界に置き換えて、いろいろ考えさせられた。他の短編も。SFはほとんど読んだことなかったけど、けっこう楽しめた。2013/11/24