内容説明
炸裂する砲弾、絶望的な突撃。凄惨極まる戦場で、作家の視線が何かを捉えた―1937年、ヘミングウェイはスペイン内戦を取材、死を垣間見たこの体験が、以降の作品群に新たな光芒を与えることになる。「蝶々と戦車」を始めとするスペイン内戦ものに加え、自らの内面を凝視するラヴ・ストーリー「異郷」など、生前未発表の7編を含む全22編。遺族らの手による初の決定版短編全集、完結編。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちびbookworm
84
★4.5.キューバ時代の短編と生前未発表含む短編集。筆者の持ち味の、贅肉を落とした筋肉質の文章が各話で活かされている◆「ある渡航」「密輸業者の帰還」キューバ時代のクルーズ船所有の体験を活かしたかいたハードボイルドなクライム短編(少しアジア人蔑視あり)◆「蝶々と戦車」これは素晴らしかった。スペイン内戦時、行きつけのバーで起きたある珍妙な事件について◆「分水嶺の下で」戦争になれば、旧陸軍のようなことはどこでも起こりうる◆「最後の良き故郷」好きな"ニックアダムズ物語"の短編。長編を構想していた幻の作品。2022/09/10
Kajitt22
42
二つの大戦とスペイン内戦という、戦争の世紀の前半を生きた著者の作品には、死の気配を感じさせるものが多い。人は皆いつか死を迎える、そしてそれを忘れ懸命にあるいは無為に生きる人たち。死を意識してこそ、本当に生が輝くのかもしれない。陽光あふれるキューバのフィンカ・ビヒアで書かれた作品群、魅力的な『ニックアダムス』の物語でさえも死の気配に包まれている。最初の短編集『われらの時代』をもう一度読みたくなってくる。2016/04/10
ドン•マルロー
29
行動者であり観察者でもあった壮年のヘミングウェイ。スペイン内戦の体験が、その後の彼の作品に抜き差しならぬ影響を与えたのは、本書におけるいわゆる”スペイン内戦もの”の印章深さひとつとってみても、明らかである。表題作である「蝶々と戦車」はほとんど完璧と言って良い作品であるし、「だれも死にはしない」などはいささか感傷的に過ぎるにもかかわらず、深い感銘を受けずにはおかない。余談だが高見浩氏の解説にも触れねばならない。氏の解説は毎度のことながら的確かつドラマチックであり、それ自体、優れた一編の短編小説のようなのだ。2017/01/22
こうすけ
20
学生時代、大好きだった作家・ヘミングウェイ。その足跡を辿るため、ヨーロッパ一人バス旅行をしたことも。長編も素晴らしいが、特に短編は、マッチョでハードボイルドという世間的なイメージとは正反対の、繊細で前衛的な作家の姿を感じられるので好きだった。 しかしこの短編集は生前未発表作も多く、『われらの時代』『キリマンジャロの雪』のような、完成度の高い作品は少なかった。本来のヘミングウェイ短編集は、この中にある『蝶々と戦車』レベルの作品がもっとゴロゴロ入っている印象。ヘミングウェイ好きにのみオススメかも。2020/09/21
まさ☆( ^ω^ )♬
14
ヘミングウェイ全短編のラスト第3巻です。700頁弱と結構なヴォリュームでしたが、どれも面白くあっという間の読書でした。生前未発表作の一つ、結構長い「異郷」が面白かった。さて、次は長編にチャレンジしてみます。2021/11/09